新型コロナウイルスの拡大で業績低迷に悩む経営者は多い。一方で、「不況期こそチャンス」と、投資を積極化する経営者がいる。なぜ、不況期に投資をするのか、それによりどれだけ企業力を伸ばし、他社に先行することができるのか。不況期に攻めの手を打ち続ける経営者の考え方を聞いた。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

<特集全体の目次>
・M&A、新規事業、設備・人材投資。不況期こそ競合に差をつける
・「新規事業こそ次の不況の備え」ヤマチユナイテッドグループ 山地章夫代表
・「同じ品質が安く手に入る」井口一世 井口一世社長
・樹研工業社長が父に学んだ考え方「不況期は『宿題』に取りかかる」


 中小企業は不況期にこそ投資をするべきだ──。

 こう語る経営者が一定数いる。それも決まって、長年堅実な経営を続ける企業を率いている。

 工作機械向けの部品製造で国内シェアトップの製品を持つエーワン精密の梅原勝彦相談役もその1人。リーマン・ショック後には、売上高が21億円から15億円に低下した中、使い道の決まっていない工場を新設し、製造設備を購入した。このコロナ危機下でも、設備の増設を続けている。

 リーマン・ショック後には、多くの中小企業経営者が、こうした「投資」に動いた。そして、コロナ危機の今も同じように投資先を探している。

 本特集でいう投資は、不動産や設備を購入する行為だけを指さない。ある製造業は、受注の大幅減に見舞われたタイミングで、普段休みなく稼働している大型設備のオーバーホールを数カ月かけて実施し、需要回復期の生産性を高めた。不況期に店舗や工場を改善する、人材採用や教育を進めるなど、長期的な視点でカネや時間を投じて不要不急の対価を得ようとする行為を広く投資と見なす。

 不況期に投資をする経営者たちに共通するのは、経営上の最大のリスクを「自社商品・技術の陳腐化」「所属する市場の縮小」と考えていること。目先の資金ショートだけを恐れるのなら、すべての投資計画を凍結するのが最善策だ。

 しかし、10年、20年先の生存確率を高めようと考えるなら、当面の資金繰りに必要なカネを残し、次につながる投資先を探すべきではないだろうか。

モノが安くなる

 彼らは、次の手を打たずに会社の存立基盤が失われる事態を圧倒的に恐れる。そのため、既存事業での利益確保に努め、利益を着実に毎年の設備投資や採用に投じたり、内部留保にしたりする。

 新しいものへの投資が習慣化している経営者にとり、不況期は採用コストとモノが安くなる好機。加えて、普段から自社が取り組むべき、新たな投資先や社内の改善テーマなどを整理しており、不況になったらそれらを順にこなしている。そこで得た新たな技術やノウハウが次の好況期に利益を生み、次の不況期投資の原資になる。

不況期に投資を実行する経営者の頭の中
<span class="fontSizeM">不況期に投資を実行する経営者の頭の中</span>
[画像のクリックで拡大表示]

 これから紹介する経営者たちは、不況期の投資で企業を成長させ、今まさに投資先を探している。M&A、新規事業、設備・人材と、投資対象はそれぞれ異なるが、彼らの思考・戦略に耳を傾ければ、コロナ下ですべきことが見えてくる。

 まずは、不況期にM&Aに積極的に取り組む、土木管理総合試験所の事例から見ていこう。

次ページ コロナ禍でもM&A