(写真:鈴木愛子)
(写真:鈴木愛子)

 無我夢中で働いていた31歳の時に、不思議な本に巡り合った。東北振興研修所が発行した『独楽吟(どくらくぎん)(橘曙覧(たちばなのあけみ))・たのしめる歌(松平春獄)』というタイトルの小冊子である。「独楽」とは「ひとり楽しむこと」を言い、「吟」は「詩歌を歌うこと」を指す。

 前半のタイトルの『独楽吟』は幕末の福井藩に生まれた歌人で国学者の橘曙覧が歌った52首の和歌が紹介されている。その特徴は、すべての歌が「たのしみは」で始まり、末尾は「…とき」で結ばれている点だ。何気ない日常の中に、新鮮なまなざしを向けて楽しみを発見する。そこから軽妙洒脱に小気味よく、和歌を紡ぎ出すセンスに思わず唸ってしまう。作者の素直な心の眼にかかると、いつの間にか嫌なことも楽しみに転化してしまうのだ。『独楽吟』の中で、僕が一番好きな歌は次の一首である。

 たのしみは
 朝おきいでて 昨日まで
 無かりし花の 咲ける見る時

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