危機感が突き動かした

 なぜこうしたことが実現できたのか。それはやはり危機感があったからでしょう。30年前から〝スーツ離れ〟は進行しています。総務省の家計調査によれば、1世帯当たり(2人以上の世帯)の背広服の年間支出金額は1991年の1万9043円をピークに右肩下がりの状況です。

 コロナ禍がこれに追い打ちをかけました。リモートワークの浸透でスーツ離れが加速。2020年の年間支出金額は2893円まで落ち込みました。業界ではフレッシャーズがスーツを買う3月は書き入れ時。例年、年間利益の約6割をここで取るところ、昨年は売り上げ4割減でした。

「新しいものを生み出していかないと生き残れない。今、市場で求められているのは何だろう」と考えました。

 コロナ禍で気を配ったのはお客様の声を聞くことです。お客様にどのような変化があったか、どういう職種の人がどんな生活になって、何に困っているのか。全国に600店ほど展開しているので、毎週、店頭のスタッフに声を集めてもらいました。

 そのときに聞いた「リモートで仕事をするとき、何を着たらいいか分からない」「宅配便が届いたときにすぐに出られる服が欲しい」といったお客様の声から、パジャマスーツは生まれたのです。

マスクで新規客を獲得

 実は昨年5月、パジャマスーツの前に、立体縫製技術を生かした布マスク「抗菌・洗えるマスク」を発売し、1200万枚を売り上げました。購入者の6割は新規のお客様です。発売当初、ウェブサイトに2万件ものアクセスが殺到し、一時はサーバーダウンしてしまいました。

 マスクの場合、企画から発売までにかかった日数は約4週間。ここで得た気づきは、「お客様が欲しいものをタイムリーに出せば売れる」ということです。当社には、市場が欲しているものを開発して、タイミングよく発売するということがそれまであまりありませんでした。マスクもパジャマスーツも時期がずれていたら、これほど売れなかったでしょう。

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