追加借り入れとリスケ

 手元資金に余裕がなくなった萬松は金融機関に追加融資を依頼。金融機関はそれに応じ、14年には2億円の借り換えと、3000万円の借り入れを実施した。それでも苦しい資金繰りは解消できず、追加融資を求めたが認められなかった。その代わり、主力の金融機関が連携し、元本返済の猶予や毎月の返済の減額というリスケジュールを認めた。

 萬松は金融機関だけでなく、取引先の企業からも多額の資金を借り入れていた。19年4月期の賃借対照表によれば、総資産16億円に対して、12億円超が長期借入金で、債務超過の状態が5年続いている。ここからも外部資金への依存度の高さがうかがえる。

 萬松の実情に詳しいある経営者は、「社用車や生産設備も大半がリースで自社の資産と呼べるものがほとんどないはずだ」と見る。資金繰りに苦しむ中、必要な設備を購入することもままならなかったのかもしれない。

 メキシコ事業の損失で資金繰りが苦しい中、今度は埼玉工場が不振に陥った。埼玉工場の設立当初からの大口取引先だった大手自動車部品メーカー向けの売り上げが激減したためだ。

 17年4月期には約14億円あった埼玉工場の売上高が19年4月期には約9億円まで減っている。これは、大手自動車部品メーカーの先にいる完成車メーカーの不振が主な原因とされる。埼玉工場を週休3日制にするなど生産調整をしていた時期もあったという。

 大手自動車部品メーカー向けの売り上げ減少は、コストダウンの要求が厳しくなったことも影響しているようだ。部品メーカーは長年、完成車メーカーの連結子会社だったが、17年に米国系の投資ファンド傘下となった。「もともとコストに厳しい会社だったが、投資ファンドの傘下になってからは、コスト面での要求が一段と強くなっていた」と、萬松と取引のあった会社の社長は指摘する。

 売り上げ減少から抜け出せず、萬松は18年に東京都中小企業再生支援協議会に支援を依頼。19年から再生計画策定支援を受けている。

 厳しい経営の中でメキシコ事業の処理を終えたところに、新型コロナウイルスの感染拡大が直撃した。完成車メーカーが再び減産を進めたことから、萬松の受注も減少。破綻直前の月次売上高は、前年比で30%程度の水準が続いた。コロナ危機が収束する兆しがない中で支払いの目途が立たず、破産の申し立てに至った。

工場の譲渡先が決まる

 破産申し立て後の事業譲渡は順調に進んだ。従業員の大半が所属する埼玉工場と九州工場は既に事業譲渡が完了した。

 埼玉工場が業績低迷に苦しんだ一方で、九州工場は系列に縛られず、複数の企業に取引を分散して安定した経営を続けていたようだ。それを裏づけるように、破産申し立てから約1カ月後の6月1日には同業でジャスダック上場の東洋ドライルーブが九州工場の譲受を発表。「自己破産前には萬松との取引はなかった。自己破産してスポンサーを探しているという情報を得て調査し、価値があると判断して当社から手を挙げた」(東洋ドライルーブ)という。

埼玉工場。既に埼玉スプリングの子会社への事業譲渡が完了し、操業している
埼玉工場。既に埼玉スプリングの子会社への事業譲渡が完了し、操業している
埼玉工場の入り口には、今も萬松の看板が残る
埼玉工場の入り口には、今も萬松の看板が残る

 受注減に苦しんでいた埼玉工場も事業譲渡が済んだ。6月29日、以前から萬松と取引のあった埼玉スプリングというばねメーカーがスポンサーに決まった。7月末には事業譲渡を終え、既に工場は稼働している。

 萬松の事情を知るある経営者は、「埼玉工場の主力取引先である大手自動車部品メーカーが既存取引の継続を約束するなどの支援をしたようだ。ただ、現場のコスト意識は低いようで、再建には時間がかかるのではないか」と見ている。

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