創業期と同じ努力を続ける
また、2010年からおよそ3年にわたってその再建に携わり、無事に再生を果たすことができた日本航空の社員に対しても、私は同じように、この「謙虚にして驕らず、さらに努力を」を戒めの言葉として贈りました。
つまり、日本航空は経営破綻してから3年間、社員の皆さんの必死の努力によって、世界最高の収益性を誇る航空会社に生まれ変わりました。しかし、そのことに慢心することなく、今後も、その3年間に払ったのと同じ努力を続けていかなければ、決してこの好業績を維持することはできない、とお話ししたのです。
そのときに、常に謙虚さを忘れず、果てしない努力を続けていくということで、日本航空の社員たちに紹介したのが、「空中に浮かぶ人力自転車」です。空想ではありますが、ここに漕(こ)げばプロペラが回り、空中に浮かび上がる、ヘリコプターのような乗り物があるとします。
今まさに、空中に浮かんでいます。重力がかかっていますから、空中に浮かんでいるだけで、相当に漕がなければなりません。ましてや、重力に逆らってさらに上昇しようとすれば、今までにもまして勢いよく漕がなければならないはずです。
このことは、経営でも同様です。会社を高収益のまま維持していこうと思えば、その高度まで上がってきたときと同じだけの努力を今後も続けていかなければなりません。ペダルを踏む力を少しでも弱めたら、重力に負けて、次第に降下していき、やがて地面に墜落してしまいます。
つまり、立派な企業であり続けるためには、創業期の頃に払ったのと同じくらいの努力を今後も永遠に続けていかなければならないのです。それは言わば、最初に述べた「誰にも負けない努力をする」という経営者としての原点に常に立ち返るということを意味しています。
現在の状態は過去の自分自身の努力の結果であって、未来はこれから自分が払う努力の結果で決まるのです。現在の経営状況がいいということは、これまで企業に集う仲間たちが努力をしてきた結果であり、決して未来を保証するものではありません。企業の未来は、ひとえにこれからどういう努力を払うかにかかっているのです。
私も85歳を超えた今も、懸命に努力しています。皆さんも、この「謙虚にして驕らず、さらに努力を」ということを、ぜひ拳々服膺(けんけんふくよう)していただきたいと強く思います。

Powered by リゾーム?