中小企業経営者にとって悩みが尽きない、人の問題。良い社員を採用・育成し、定着させるにはどうすればいいか。前号に続き、人事制度コンサルタントの松本順市氏が語る。

<シリーズ企画第4回全体の目次>
・問1 定年再雇用制度の良い例、悪い例を知りたい
・問2 専門家の力を借りて、人事制度をつくるときの注意点は
・問3 年功序列と実力主義、どちらが中小企業に向いている?
・問4 「どうしたら給料が増えますか」と社員に聞かれたら
・問5 面倒くさいので人事制度を作りたくない。許される?

松本順市(まつもと・じゅんいち)
ENTOENTO代表
1956年福島県生まれ。学生時代からアルバイトをしていた魚力に、中央大学大学院中退後に入社。社長の参謀役として労働環境改善に取り組み、業界初のサービス残業ゼロ、完全週休2日制を実現。社員の成長を支援する人事制度を構築し、東証2部上場(現在は1部)を達成する原動力となる。93年に独立し、中堅・中小企業を中心に人事制度の指導・支援を展開する。2021年5月17日現在で1306社の人事制度を構築した
問5
人事制度を作るのは正直面倒くさいし、時間も取られる。中小企業がなぜそこまでやらなくてはいけないのですか。
(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 講演会の質疑応答の時間に、「人事制度はどうしても必要ですか」と質問を受けることがよくあります。経営者が日々社員と同じ場所で働いている小規模な会社であれば、必ずしも必要ないと思います。社員と常にコミュニケーションを取りながら、働きぶりを直接見て評価できるからです。具体的には社員が10人規模なら、中間管理職もいないでしょうから、人事制度は必須ではありません。

 でも、経営者と一般社員の間に管理職を置くようになったら人事制度が必要になります。中間管理職の評価によって部下の昇給や賞与が決まってくるので、各社員に納得して働いてもらうためには人事制度が欠かせません。

 そうは言っても、会社が日々大きな問題もなく回っていれば、人事制度を作るのは面倒くさいと思うかもしれません。ただし、考えてみてください。どんな企業でも、お客様からクレームを受けることがあるでしょう。あなたは、そのお客様のクレームを放置しますか。真剣に対応しますよね。それなのになぜ、社員の不満や不安には対応しないのですか。

 「問4」のように、「どうしたら自分の給料が増えるのか」と聞いてくる社員に対して、きちんと説明できている経営者がどれだけいるでしょうか。人事制度を作るのは、社員のことを考えている経営者なら真っ先にすべきことです。

離職の本当の理由は?

 経営者が社員の不満を拾おうとしなければ、社員は黙って離職していきます。あるアンケート調査によると社員の退職理由の3割は、「評価に納得しない」「給料の決め方に納得しない」というものです。しかし退職するときに、この理由を正直に話す社員はいません。

 おいしくないレストランで食事をしても、素直に感想を言う人はわずかです。何も言わず二度と行かないだけ。それと同じです。退職時にあえて本当のことを言って、波風を立てる社員はいません。

 人事制度があっても不満は出るのに、制度がなければさらに不満は多くなります。どの社員も「この会社で働きたい、成長したい」と思って入社してきています。そんな社員が途中で辞めないようにするのは経営者の責務です。

 社員の心の声を無視している限り、永遠に問題は解決できません。社員の不満を解消しようと頑張って人事制度を作れば社員は定着し、そして育ちます。また、離職が減れば、経営者のストレス軽減にもつながるでしょう。

 人事制度は、最初に作った時点では60%くらいの完成度です。運用すると、社員からいろいろな質問や不平不満が出てきます。そのときに「なぜだ!」と言わず、まずは「ありがとう」と感謝し、耳を傾けてください。不満を伝えてくれる社員は、この会社が好きでずっとここで働きたいと思っているから言ってくれるのです。

 社員のためにも、経営者のためにも人事制度は必要です。そう言うのは私が人事の専門家だからではなく、真実だからです。

人事制度がものを言う時代 社員の採用・育成・定着を実現する
『1300社が導入した 日本型ジョブディスク リプション』<br>著者 : 松本順市<br>出版社 : 日経BP<br>価格 : 1760円(10%税込み)
『1300社が導入した 日本型ジョブディスク リプション』
著者 : 松本順市
出版社 : 日経BP
価格 : 1760円(10%税込み)

小社ではこのほど、松本順市氏の著書『1300社が導入した日本型ジョブディスクリプション』を発行しました。欧米発の「ジョブ型雇用」が大きな注目を集めていますが、人事制度のトレンドに左右されず、真に社員と企業の成長に寄与する評価・賃金の仕組みとは、どのようなものか。中小企業も大企業も、改めて人事制度を再構築するときです。豊富な事例とともに、あるべき姿を提示します。

(この記事は、「日経トップリーダー」2021年8月号の記事を基に構成しました)

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