中小企業経営者にとって悩みが尽きない、人の問題。良い社員を採用・育成し、定着させるにはどうすればいいか。前号に続き、人事制度コンサルタントの松本順市氏が語る。

<シリーズ企画第4回全体の目次>
・問1 定年再雇用制度の良い例、悪い例を知りたい
・問2 専門家の力を借りて、人事制度をつくるときの注意点は
・問3 年功序列と実力主義、どちらが中小企業に向いている?
・問4 「どうしたら給料が増えますか」と社員に聞かれたら
・問5 面倒くさいので人事制度を作りたくない。許される?(9月7日公開)

松本順市(まつもと・じゅんいち)
ENTOENTO代表
1956年福島県生まれ。学生時代からアルバイトをしていた魚力に、中央大学大学院中退後に入社。社長の参謀役として労働環境改善に取り組み、業界初のサービス残業ゼロ、完全週休2日制を実現。社員の成長を支援する人事制度を構築し、東証2部上場(現在は1部)を達成する原動力となる。93年に独立し、中堅・中小企業を中心に人事制度の指導・支援を展開する。2021年5月17日現在で1306社の人事制度を構築した
問4
「どうしたら給料が増えますか」と聞かれるが、「頑張ったら増える」としか言えない。社員にうまく説明する方法はありますか。

 「どうしたら給料が増えるのでしょうか」と社員に聞かれた場合、どう答えればよいか。「大丈夫。君のことはちゃんと見ているから」とごまかしたりしていませんか。厳しい言い方をするようですが、この質問が社員から出ること自体がアウトです。

 給料を増やす方法は、毎月の給料を増やすか、賞与を増やすしかありません。社員がこのような質問をするのは、経営者が昇給や賞与の根拠を、きちんと社員に説明していないからです。

「業績で変わる」と伝える

 経営者の皆さんは昇給や賞与を決めるとき、何に一番悩みますか。恐らく個々の社員の評価を決めること以上に、その年の利益からどれだけを昇給と賞与の原資に回すか、でしょう。と言うのも、会社の業績によって昇給と賞与が変動することを理解している社員が、驚くほど少ないからです。

 経営目標に届かなければ賞与は減るのです。「賞与は減らしてもいいのでしょうか」と、よく経営者から相談を受けます。業績が悪くても大切な社員のためにできれば満額を出したいという気持ちも分かりますが、やめたほうがいい。

 期初に経営目標を発表する場で、業績によって昇給と賞与が決まることを、例えばこのように説明しましょう。「目標を達成すれば昇給や賞与は満額支払います。経営目標は会社の存続・発展のためであり、皆さんの給料を上げるためにも大事なものです」。

 経営目標を達成することで、昇給や賞与が満額得られるのだと理解すれば、目標を達成しようと頑張ります。また、階層ごとの昇給額も明らかにすれば、社員たちは管理職層になれば昇給額も大きくなるのだと分かります。

教え合えば好業績に

 業績目標を達成できず、昇給や賞与が減る場合は、「業績が落ちたためで、○さんの評価(成長点数)が下がったからではありません」などと個々に伝えましょう。

 そうすれば、社員は「頑張ったのに評価されていない」と不満を感じたり、「上司に嫌われているから、私の賞与が少ないのでは」と不信感を持ったりすることもない。「どうすれば賞与が増えるのか」と質問してくる社員は仕組みが分からず、不安なのです。具体的な説明をすれば、賞与が下がることも受け入れてくれます。

 昇給や賞与の原資は、業績で変動する。そして分配は個々の評価(成長点数)によって決まる。さらに「みんなで仕事を教え合って業績を上げれば、昇給・賞与は増えます」とも伝えましょう。

 成果を上げられていない社員に、成果を上げている社員のやり方を教えることが、全社の業績を上げる方法だと説明すれば、優秀な社員は進んで自分のやり方を社内で共有するはずです。もちろん、そうして仕事を積極的に教えた社員には、最も高い成長点数(評価点数)を付ける人事制度にすることが前提になります。

人事制度がものを言う時代 社員の採用・育成・定着を実現する
『1300社が導入した 日本型ジョブディスク リプション』<br>著者 : 松本順市<br>出版社 : 日経BP<br>価格 : 1760円(10%税込み)
『1300社が導入した 日本型ジョブディスク リプション』
著者 : 松本順市
出版社 : 日経BP
価格 : 1760円(10%税込み)

小社ではこのほど、松本順市氏の著書『1300社が導入した日本型ジョブディスクリプション』を発行しました。欧米発の「ジョブ型雇用」が大きな注目を集めていますが、人事制度のトレンドに左右されず、真に社員と企業の成長に寄与する評価・賃金の仕組みとは、どのようなものか。中小企業も大企業も、改めて人事制度を再構築するときです。豊富な事例とともに、あるべき姿を提示します。

(この記事は、「日経トップリーダー」2021年9月号の記事を基に構成しました)

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