伸びている会社は「六方よし」の経営を実践している──。六方よしとは、近江商人の「三方よし」に「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えた経営理念だ。この説を主張しているのは、経営エッセイストの藻谷ゆかり氏。藻谷氏は最新刊『六方よし経営』でこれを世に問うている。六方よし経営とは何か、そしてその担い手とはどのような人たちなのか、同氏がリポートする。

・今、なぜ「六方よし経営」なのか?
・「六方よし経営」へのプロセスは越境学習から始まる
・「六方よし経営」の担い手はジョブ型志向の若い世代
藻谷ゆかり(もたに・ゆかり)氏
経営エッセイスト。1963年横浜市生まれ。東京大学経済学部卒業後、旧日興証券に就職。ハーバード・ビジネススクールでMBA取得後、旧日本モトローラ、旧日本GM勤務を経て、97年インド紅茶の輸入・ネット通販会社を千葉県で起業。2002年に家族5人で長野県に移住。18年に会社を事業譲渡し、現在は「地方移住×起業×事業承継」についての執筆と講演を行う巴創業塾を主宰。7月、日経BPから『六方よし経営』を出版

 私は、新著『六方よし経営』の中で、先進的な経営実践を14の事例と4つの小さな事例で紹介しています。どのケースも多額の資本投資を必要としていません。しかも業績を伸ばしています。

 これから六方よし経営に取り組もうとする経営者や新規事業に挑戦する経営者、ベンチャー型事業承継や社会的起業を志す人たちにとって、特に参考になると自負しています。

若い世代が実践

 また、人口3万~5万人規模の地方都市にUターンやIターンし、事業承継したり起業したりした事例を多く取り上げています。

 地方で人口減少を嘆くよりも、「人や事業の新陳代謝が起こっているかどうかが重要である」ことが分かってもらえると思います。人や事業の新陳代謝が起こっていれば、関係人口や交流人口の増加が期待でき、地方都市の存在が消滅したりはしないのです。

 ここまで、六方よし経営という先進的な経営をいち早く実践し、伸びている会社と、六方よしに至るプロセスを紹介してきました。

 ここで、そもそも私がこれを見つけることができた道のり、そして六方よし経営の担い手たちはどんな人なのか、現場で感じたことも紹介しておきたいと思います。

 私は日ごろ、「地方で生き残るビジネス」を研究しています。

 私の夫は国際エコノミストの藻谷俊介で、その弟が地域エコノミストの藻谷浩介です。浩介は、行政も含め、地域全体で地方をどう盛り上げていくかという課題を研究していると思いますが、私の場合は、地域おこしではなく、地方にある個別企業の経営実践を研究しています。

 人口が3万~5万人に減って、こんな町でビジネスなど伸ばしようもないと思えるような場所でも、成功している経営事例を私は数多く取材してきました。取材の現場で、まず経営者に1980年代・90年代生まれの若い世代が多いことを目の当たりにしました。さらに、彼らの仕事に対する考え方が「ジョブ(職務)型」であることが多いということにも気がついたのです。

 私は、還暦も近い1963年生まれで、高度経済成長期に会社員家庭で育ちましたが、「いい大学に行って、いい会社に入るのがいい」という価値観を自然と刷り込まれています。そういう人間には実感できない面もあるのですが、地方でイノベーションを起こしている若い世代は意志が強く、行動力もあります。

続きを読む 2/4 「ジョブ型」志向で挑戦

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