CSRは生き抜く知恵

 一方、三方よしの近江商人とは、地商いの商人ではなく、「他国に行って商いをした近江発祥の商人」のことです。今より物流や通信の手段がはるかに劣る江戸時代において、地縁や血縁がない他国に出向き、ゼロから信用を積み重ねて商いをしていくのは簡単ではなかったはずです。

 そのため近江商人は、薄利で卸売りをして「共存共栄」の商いを心がけました。天保の飢饉(ききん)の際には、米の廉価販売をした近江商人もいたといわれています。このような商いのやり方や地域への社会貢献が世間よしです。こうした世間よしの実践は、近江商人にとって「他国で商いをする上での生き抜く知恵」だったのです。

 近江商人の三方よしは、従来の二方よしの商いに世間よしを加えたことで、CSR(企業の社会的責任)という側面が加わり、今日にも通用する経営理念となりました。ただし三方よしという言葉は、近江商人たちが使っていた言葉ではありません。近江商人を研究した経営学者が、「近江商人の三方よし」という言い方を1980年代から使い始めました。こうした経緯はともかく、三方よしは、近江商人の経営理念を分かりやすく説明する言葉といえます。

共存共栄+環境、未来

 では次に六方よしの「作り手よし、地球よし、未来よし」について説明しましょう。

 まず「作り手よし」ですが、作り手を従業員とすれば、既に「売り手よし」に含まれているのではないかとする考え方もあります。ですが今は、商圏がグローバル化しており、作り手の範囲も、自社の従業員だけでなく、取引先やその子会社の従業員まで含まれ、売り手とは異なります。そして、そのすべての作り手の労働条件や取引条件が適切であるかが重要になってきているのです。

 「地球よし」とは、ビジネスの範囲を地球全体に広げ、さらに「地球環境まで考えて事業を行う」ということです。そして「未来よし」は、時間軸を加えて、「今の経済活動が、地球の未来や人類の未来にとっても、適切であるかどうか」が問われるようになっていることを意味します。今や、消費者や人権団体、株主、国際機関などのステークホルダーが、作り手や環境の問題をチェックしています。

 例えば、中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区の綿花栽培で、少数民族の強制労働が行われているのではないかという問題があります。

 この問題に関して、スウェーデンの大手アパレル製造小売りH&Mは、2020年9月に現地に工場を持つ中国企業との取引停止を表明しました。また同社は、「すべての素材がリサイクル、オーガニック、またはその他のサステナブルな方法で調達されることを目指している」(同社HPより抜粋)とのこと。H&Mの姿勢は、まさに作り手よし、地球よし、未来よしをよく表しています。

 このように、現代では「六方よし経営」が必要とされているのです。そして経営者は、売り手、作り手であり、この六方よしすべてを実現する担い手なのです。

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