伸びている会社は「六方よし」の経営を実践している──。六方よしとは、近江商人の「三方よし」に「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えた経営理念だ。この説を主張しているのは、経営エッセイストの藻谷ゆかり氏。藻谷氏は最新刊『六方よし経営』でこれを世に問うている。六方よし経営とは何か、そしてその担い手とはどのような人たちなのか、同氏がリポートする。

・今、なぜ「六方よし経営」なのか?
・「六方よし経営」に至るプロセス(8月13日公開)
・「六方よし経営」の担い手は若い世代(8月16日公開)
藻谷ゆかり(もたに・ゆかり)氏
経営エッセイスト。1963年横浜市生まれ。東京大学経済学部卒業後、旧日興証券に就職。ハーバード・ビジネススクールでMBA取得後、旧日本モトローラ、旧日本GM勤務を経て、97年インド紅茶の輸入・ネット通販会社を千葉県で起業。2002年に家族5人で長野県に移住。18年に会社を事業譲渡し、現在は「地方移住×起業×事業承継」についての執筆と講演を行う巴創業塾を主宰。7月、日経BPから『六方よし経営』を出版

 江戸時代に全国で活躍した近江商人は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」を商売の基本としたといわれています。三方よしは、「自分の利益追求だけにとどまらず、社会貢献をする」という経営倫理に基づいており、当時としては先進的な経営でした。

 しかし現在は、経済がグローバル化してサプライチェーンが複雑になり、「売り手」の範囲が大きく広がっています。また大量生産・大量消費の経済活動が地球環境の悪化を招き、人類の存続をも脅かす状況となっており、「世間よし」についても見直しが必要です。つまり三方よしだけでは、時代に合わなくなっているのです。

江戸時代、商売の多くは商圏の狭い「地商い」だったが、近江商人は全国を商圏にした。そこで編み出されたのが「三方よし」の思想だった(イラストはイメージ)(イラスト/(c)KIMASA/PIXTA)
江戸時代、商売の多くは商圏の狭い「地商い」だったが、近江商人は全国を商圏にした。そこで編み出されたのが「三方よし」の思想だった(イラストはイメージ)(イラスト/(c)KIMASA/PIXTA)

 元国連職員の田瀬和夫氏は著書『SDGs思考2030年のその先へ 17の目標を超えて目指す世界』(インプレス)で、次のように「六方よし」の経営を提唱しています。「ここでは、『三方よし』にさらに3つの『よし』を加えた『六方よし』の経営を提案します。すなわち、(4)サプライチェーン上の『作り手』が守られ、真価を発揮すること、(5)私たちの活動の舞台である『地球』が健康な状態にあること、そして(6)私たちの次の世代、それに続く将来の世代に負の遺産を遺さないような行動を私たちが取ることです。

 売り手よし、買い手よし、世間よし、作り手よし、地球よし、未来よし。この『六方よし』こそ、SDGs(持続可能な開発目標)時代に求められる経営であり、すべての企業がSDGsに取り組む大義であると考えます」と。

 「商は笑(しょう)なり」という言葉があります。「売り手と買い手の双方が、商品を介して笑い合うのが商いの理想」という意味です。商いは、そもそも売り手と買い手の相対(あいたい)で行われ、「二方よし」でいいはずです。また江戸時代には地商(じあきな)いといって、商圏は今よりもずっと狭く、商人は地元のお客に商品を売ることがほとんどでした。

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