本誌は今年4月、毎年恒例のプラチナフォーラムをオンラインで開催した。初日には、本誌人気連載「リーダーシップの誤解」の岸見一郎氏が登壇。「思い通りにならない部下との付き合い方」をテーマに講演した。

岸見一郎(きしみ・いちろう)氏
哲学者
1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともにダイヤモンド社)、『ほめるのをやめよう』(日経BP)など著書多数

 仕事に対して一生懸命取り組まない部下、失敗ばかりする部下、成績が上がらない部下、言うことを聞かない部下、承認欲求の強い部下──。思い通りにならない部下がいると感じたら、それは自分に責任があると考えなければなりません。対人関係は思い通りにならないものであり、思い通りにしようとしてはいけません。アドラー心理学のリーダー論を参照しながら「思い通りにならない部下との付き合い方」についてお話ししていきたいと思います。

行動の目的を考える

 私は、リーダーは教育者であると考えています。部下はリーダーより知識も経験も圧倒的に足りません。それを教えていくのは教育者であるリーダーの役割です。

 部下が無能であることを問題にしてはいけないとアドラーは言っています。アドラー心理学の大きな特徴は、行動の目的を考えること。多くの場合、その目的は無意識です。本人も言われてみて初めて分かるということが多い。

 思い通りにならない部下がいるとしたら、その部下はリーダーとの対人関係の中でそのような行動を選んでいるのです。

 問題行動を起こす部下の目的は、リーダーの注意を引くことです。普通にしていたら注目されないと感じた部下は、リーダーがいら立つような行動をとり、自分に注目させようと試みます。

 腹を立てたリーダーが、部下を大声で叱責したとしましょう。このとき部下は、権力争いを始めます。どちらが上かハッキリさせよう、ということですね。ここでリーダーが部下を叱って追いつめてしまうと、部下は次の行動に移ります。すなわち「復讐」です。

 復讐の段階に入ると、リーダーは腹が立つという段階を超えて、失望する段階に入ります。この段階になると、利害関係のない第三者が介入しない限り、この部下との関係性を再構築することは難しいでしょう。

課題を分離する

 あることの最終的な結末が誰に降り掛かるか、最終的な責任を引き受けるのが誰なのかを考えたとき、それが本来「誰の」課題であるかが分かります。

 およそあらゆる対人関係のトラブルは、人の課題に土足で踏み込むこと、踏み込まれることから起こります。

 子育ての例で見てみましょう。子どもが勉強しないことの責任は子どもにしか引き受けることができません。つまり、勉強するかしないかは、子どもの自由です。

 「もっと勉強しなさい」と言われなくても、勉強をすべきであることは子どもにも分かっています。最も重要なことは、子どもの課題に親が一切介入しないこと。これを「課題の分離」といいます。

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