しかし、人に「一生懸命働いていますか」と聞くと、ほとんどの人の場合「はい、働いています」と返答されます。それでは意味がないと思った私は、「誰にも負けない努力をしていますか」「誰にも負けないような働き方をしていますか」と聞くようにしました。

 あなたは自分では一生懸命働いていると言っているけれども、そんな働き方では不十分です。もっと真面目に、もっと一生懸命に働かなければ、会社でも人生でもうまくいきません。そういう意味で、私は「誰にも負けない」という言葉をつけて、ただ一生懸命努力をするというだけではなく、「誰にも負けない努力をする」という表現をしているわけです。

(写真/菅野勝男)
(写真/菅野勝男)

 振り返ってみれば、私は27歳で京セラを創業して以来、今日まで、本当に毎日をど真剣に生きてきました。80歳を前にして、世のため人のためになるのであればと、半ば義侠(ぎきょう)心から日本航空の会長を引き受け、老骨にむち打ち、無報酬で再建に全身全霊を傾けたのも、私のこうしたフィロソフィに起因するものであったのかもしれません。しかし、まさにそのフィロソフィが、京セラを成長発展に導いたのであり、日本航空を再生させたのです。一生懸命に働くということ以上の、経営のノウハウはないと言っても過言ではありません。

 ぜひ皆さんもそのことを信じて、「誰にも負けない努力」によって事業を成功に導いていただきたいと思います。一生懸命頑張る、一生懸命努力するというだけではなくて、どんな人にも負けないような努力という意味で、「誰にも」という言葉を冒頭につけているわけです。

小心者が場数を踏むことで真の経営者に成長する

 次に、起業し、いったん成功した事業を安定させるためには、「土俵の真ん中」で経営する、つまり「慎重堅実な経営を行う」ことが求められます。

 世の多くのベンチャー起業家は、自らの才覚を頼みに、積極果敢に事業を展開し、一時的な成功を収めます。しかし、やがて無理な拡大路線により資金繰りなどに困窮し、企業を安定させることができず、あるいは経済変動の波に押し潰されて淘汰されていきます。一方で、数は少ないながらも、そうした試練に耐えて、経済変動をむしろ飛躍台として、業績を伸ばしていく企業もあります。

 では、消滅していった企業と生き残った企業との違いはどこにあるのでしょうか。私は、それは「慎重堅実な経営を行う」という姿勢があったかどうかだと思います。

 ともすれば世間では、経営者とは大胆不敵で、生まれつき豪腕型の人でなければならないと考えられていますが、そうではありません。むしろ私は、真の経営者とは小心者でなければならないとさえ考えています。小心者が場数を踏むことで、自分を鍛え、人間性を高め、真の経営者に成長していくのであろうと思うのです。

(写真/菅野勝男)
(写真/菅野勝男)