
忘れもしない、都内で学生時代から続けていた読書発表会のときのことである。ある方が、やおら世阿弥(能の役者でもあり、作者でもある)の著した『花鏡』という本の話を始めた。世阿弥は父の観阿弥とともに猿楽(能)を大成させた人物で、『花鏡』にはそんな世阿弥の芸術論が書かれている。
「能」については知識も関心もなかった自分はチンプンカンプンで、隅っこの席でボーッと聞いていた。ところが「初心忘るべからず」とよく耳にしたり、口に出したりしている言葉の出典が『花鏡』にあると聞いてビックリ。その方は「世阿弥の著作は単に能や演劇の話にとどまらない。人生という舞台で、人はどう一生を演じてゆけばよいのかという深いテーマを書いている。とりわけ『花鏡』の“初心”については秀逸だ」と熱弁を振るった。
これは即刻読まなければならないと思った僕は、会の途中に抜け出して書店に走った。そして、やっと見つけた『花鏡』を開いてビックリ仰天。今まで自分が思っていた“初心”とは視点が全く違うのである。
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