「新たな事業を生み出したい」「異なる分野で売り上げを増やしたい」いつの時代でも新規事業を求めるのは経営者であれば当たり前のことだろう。それに加えて、現在はコロナ禍や原材料価格の高騰など、経営環境が激変している。既存の事業とは異なるビジネスを切望する企業も多い。新規事業を生み、育てるには何がポイントとなるのか。月決め駐車場の管理システムが伸びているハッチ・ワークの事例から見てみよう。

(写真/GettyImages)
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・「痛み」が開いた月決め駐車場という未開地 ハッチ・ワーク
・意識して新事業を発掘 「全点張り」で芽を探す(7月5日公開)

 これまでオンライン化が遅れていた月決め駐車場の管理や契約の分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進んでいる。月決め駐車場の変革をリードしているのが、2000年創業のハッチ・ワーク(東京・港)だ。

 同社はもともとオフィスの仲介や貸し会議室などオフィス向け不動産に関連する事業を主力としてきた。だが、コロナ禍によってオンラインで月決め駐車場を契約したり管理したりするニーズが拡大していることもあって、月決め駐車場の事業がオフィス事業を逆転するまでになった。これまでの主力に代わり会社の柱にまで成長した新規事業を同社はどのように育てたのだろうか。

月決め駐車場管理システムが主力事業に育ってきた
月決め駐車場管理システムが主力事業に育ってきた
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 ハッチ・ワークの大竹啓裕会長は同社創業前にラーメンチェーン大手の創業メンバーとして、フランチャイズチェーン(FC)の構築に携わった。その後、不動産データベースを使った新サービスを立ち上げるため、ハッチ・ワークを創業。FC構築の知見を利用して、賃貸オフィス仲介をFC展開する事業に乗り出した。だが、オフィス仲介のFC事業は、月ごとの仲介件数の変動が大きいとった事情があり、拡大することができなかった。

 オフィス仲介FC事業の失敗にもめげず、大竹氏が次に目を付けたのが貸し会議室の事業だった。リーマン・ショックによってオフィスの空室が目立ち始めた頃のことである。きっかけは取引先のビルのオーナーから空室が増えて困っているという相談を持ち掛けられたことだった。会議室運営の企業に話を持ち込んだものの、断られたため「自分たちでやってみるかということになった」(大竹氏)。

 大竹氏は「(人材やノウハウなどの)リソースは7割程度はあるけど、3割ぐらいは足りない状態でスタートした」と話す。人材や技術、ノウハウなどが不足していても、機会が訪れたときに踏み出せなければ、新規事業はいつまでたっても生まれない。同社はオフィスのデータを持っていることに加えて、チェーンオペレーションに携わった経験を会議室の運営に生かすことができるという強みもあった。土台となる事業とニーズはあるが、社内のリソースはやや足りない。そんな領域にこそ新規事業の種は眠っているのだ。

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