多くの中小企業は長期目線での安定した経営を目指しているはずだ。新型コロナウイルス感染症の拡大は、そうした中小企業にとって、単一事業への依存がどれだけ危険かを再確認する契機となった。
この危険から逃れるためには、短期的な利益率や投資効率を犠牲にしてでも、事業の多角化を目指す必要がある。
多角化を難しく捉えて、「自分たちにはできない」などと考える必要はない。リーマン・ショックの際、単一企業の下請けだったメーカーは、他メーカーに自社の技術を売りに行った。東日本大震災後には、首都圏に集中出店していたチェーン店は、関西への出店を始めた。こうしたシンプルな取り組みも、リスク分散につながる重要な多角化戦略だ。
しかし、闇雲に多角化をすれば、経営資源の分散を招き、失敗すれば倒産につながるかもしれない。そこで、地道な多角化が安定経営につながっているケースを紹介するとともに、後半には専門家が考える多角化戦略の注意点と、多角化の方向性を整理した。
<特集全体の目次>
・運送業から「地域密着サービス業」へ多角化 地域の困り事を解決
・チャンピオンカレー、コロナ禍でも健闘 オフェンシブ人材を抜擢
・事業の多角化は、全面撤退できる範囲内で試す
・有事に倒れない会社をつくる、多角化10のポイント
CASE1 地域の困り事解決で軸足を増やす
流通(鳥取県倉吉市)
創業
1977年
売上高 6億5000万円 (2020年6月期見込み)
従業員数 100人
「いやあ、今回ほどいろいろな事業をやっていてよかったと思ったことはないですよ」。そう話すのは、流通の江原剛社長だ。
流通は「地域密着サービス業」を掲げ、運送、バス・旅行、イベント、人材紹介という4つを主力事業とする。「地域の困り事を解決していくうちに事業が増えた」と江原社長が話す通り、このほかにも、ペット葬祭や不用品買い取り、ハチの巣駆除などさまざまな事業を手がけている。
そんな同社だが、全国の多くの企業と同じように、新型コロナウイルスの感染拡大が経営を直撃した。3月2日から17日まで小中学校が臨時休校になったため、請け負っている通学バスの運行や給食配送業務が休業状態になったほか、貸切バスは軒並みキャンセル。イベントは中止が相次いだ。
3月単月の売上高は前年比20%減。学校関連の事業は再開したものの、非常事態宣言解除後も、旅行やイベント部門の客足は鈍いままだという。
それでもコロナショックの影響は比較的軽微で済み、「2020年6月期は黒字が見込めそうだ」。これも長い月日をかけ、多角化に取り組んできたことで、不振事業のマイナス分を他の事業でカバーできたからだ。
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