会社とは何か。マネジメントとは何か。そして経営者とは何か。経営者なら一度は触れたことがあるドラッカーの教えは不透明感が増すこの時代だからこそ重みを増している。ドラッカーのマネジメント理論の最重要部分を解説した佐藤 等氏(ドラッカー学会共同代表理事)によるセミナーを再録する。

(写真=Claremont Graduate University/AP/アフロ)
(写真=Claremont Graduate University/AP/アフロ)

組織は社会的な道具

 ドラッカーが経営者に教えたこと、その中でもとりわけ重要なポイントを解説していきます。

 「基本と原則を状況に応じて用いること、もしこれに反すれば、例外なく破綻する」

 ドラッカーはこんなことを言っています。「例外なく破綻」とは非常に強い言葉ですが、ドラッカー自身がこの表現を選んだわけです。ここで大事なのは、「基本と原則」という言葉です。ドラッカーのマネジメントは、まさにこの基本と原則から成り立っています。世の中には、「これをやるとうまくいくよ」というビジネス書やセミナーが多いかもしれませんが、ドラッカーのマネジメントは「これをやると失敗するよ」というものが多いのです。基本と原則に外れないということが、ドラッカーが最も伝えたかったことではないかと思います。

 では、基本と原則とは何か。その確認をしていきましょう。

 「組織は社会的な道具である」

 ドラッカーのマネジメントの一丁目一番地と私がいつもお伝えしているのがこの言葉です。なかなかインパクトのある言葉だと思います。私の父親はサラリーマンでしたから、子ども心に父は会社に使われているんだと思っていました。しかし、そうではない。「組織というのは使うべき道具だ」とドラッカーは言っています。顧客も、属している社員も、そしてもちろん経営者にとっても組織は道具である、と。

 そして、ドラッカーは組織には目的があると言います。道具ですから、時計や携帯電話と同じで、目的が果たせなければ、ただのガラクタになってしまうのです。

 組織の目的について、ドラッカーは3つ挙げています。

 ①組織の目的は、社会において特定の使命(ミッション)を果たすこと(顧客)

 それぞれの企業には大事にしているミッションや企業理念があると思います。財やサービスを提供し、顧客の役に立つことです。

 ②組織の目的は、仕事を通して成果を上げさせ、人を成長させること(従業員)

 人を生かして、仕事を生産的にすることで働く人の自己実現を達成する場とすることです。

 ③組織の目的は、社会課題を解決すること(社会)

 最近ではSDGs(持続可能な開発目標)といったことも盛んに言われていますが、社会課題の解決が企業に大きく期待される時代になっています。

 この3つをまずは記憶にとどめておいてください。

 さらに話を深めていくと、「事業は組織の使命を実現する手段である」、あるいは「事業は組織の目的を実現する手段である」という言い方もできるのではないでしょうか。組織は入れ物で、その中にいくつもの事業が入っているイメージです。事業は古くなっていくので、更新していかなくてはなりません。

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