真心と優しさで接する

 監督時代に毎日書き続けてきたノートがあります。監督に就任した際、監督の教科書がなかったので、いつどんなサインを出したのか、どんなふうに選手を起用したのかなどを残し、それが誰かの役に立てばと思って始めたものです。

 そのノートには、毎年、1月1日に「自分との約束10カ条」を書きます。例えば、「一以て之を貫く」。孔子が言ったところの「忠恕」ですよね。要するに真心と優しさです。

監督になって10年間、「選手に嘘はつかない」という信念を貫いてきた
監督になって10年間、「選手に嘘はつかない」という信念を貫いてきた

 選手との人間関係を良くしたくて、何かを言いたくなるんですよね。でも、そこで言った監督の一言は、口にした以上は絶対に行動しなければなりません。だから、余計な一言はかけてはいけないのです。一方で、考え抜いて厳しい言葉をかけなければならないこともあります。そのためにも、真心と優しさは常に自分の心にとどめていました。何より、絶対に選手に嘘はつかないと決めていました。

野球も経営も本質は「人」

 なぜ自分は生きているのだろう。大好きな野球は人生のベースなのですが、なぜこんなに必死に野球をしているのだろうと考えることもあります。ただ、監督を続けてきたこの10年間、最初から今まで全く変わらなかった思いは、最後は人なんだ、ということです。つまり、野球は人なんだ、と。人を研究したり、追い求めたりしなければ、選手たちに何のアプローチもできないと思っています。

 例えば、皆さんご存じの大谷翔平選手が、野球に対して、練習に対して、なぜあんなふうに考えられるのか。それも、大谷選手という人ですよね。

 若い選手が大谷選手に憧れ、「カッコいい」と思えば、そこに向かっていろいろなやり方で目指せるはずなんです。こういうふうにならなきゃダメだとか、こうしなさい、と伝えるのではなく、その選手がカッコいいと思うなら、そうなれるために必要なものをすり合わせていく。その作業が監督の仕事だと思っています。

自分との約束を破るな

 10年間、監督として大事にしてきたものは、やはり「言葉」です。1回言ったことは確実に行動に移しましたし、嘘はつかないと決めています。

 入団する選手の親、学校の監督に「こういう選手になってほしい」という一言を書いてもらい、選手自身にも「こんな選手になるのだ」という決意を書くように伝えています。これは教育者の森信三先生が中学生に元服としてやらせたことだと本で読みました。

 僕も最後に、こう書きます。「人間たるもの自分との約束を破るやつはいない」。これは吉田松陰の言葉です。人に何を言われてもいいから、練習でも何でも、自分で決めたことだけはやりなさい、という意味です。

 なぜこんなことをさせるかというと、もし僕が14歳のときに、校長先生や担任の先生、親、そして自分が、10人の伝記を読んで、これだと思う言葉を書いたとします。その決意のようなものが10年、20年、30年たったときに僕に残っていたら、全然違っていただろうなと思ったのです。

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