
一人ひとりを生かせば、チームは強くなる
10年間、北海道日本ハムファイターズの監督を務め、2022年に侍ジャパンの監督に就任しました。監督は指導者であり、組織のトップです。しかし、僕自身は、実はあまりリーダーといった感覚は持っていません。一人ひとりの選手をどうしたら生かしてあげられるのか、成長過程を手伝ってあげられるのか。ひたすらそれだけを考えてきました。それがうまくいけば、組織は良くなりますし、チームは強くなります。
監督としての大先輩である故野村克也氏には大きな影響を受けました。最も心に残っているのは、「組織はトップの器以上に大きくならない」という言葉です。これは何度となく言われました。だから、監督はとにかく勉強しなければならない。自分の学びや経験、心のコントロールや人としての器の大きさ、それがすべてなんだ、と。
そのため僕は、監督になってからは、野球の経験を積むだけでなく、選手が夜、バットを振っている時間に本を読んだり、いろんな人と会って話を聞いたりするよう心がけてきたつもりです。経営も野球も、人を生かすという意味では本質は同じでしょう。野球とは違う分野にもヒントがないか、追いかけました。

偉人の言葉に救われる
よく頭が真っ白になるといいますが、選手が打たれたり、打てなかったり、エラーをしたりして負ける、逆転ホームランを打たれるといった瞬間は、全身が汗びっしょりになります。
すべて僕の責任です。また同じ場面になれば、同じ判断をするといつも思っています。でも、どれだけプロセスが正しくても結果が間違っていれば、責任を取らなければならない世界です。全身に汗をかく状態が数時間続き、場合によっては朝方までそれを引きずってしまうこともあります。
そんな夜に、人生の大先輩の偉人の言葉に救われることが多々あります。大きな影響を受けたのは渋沢栄一の『論語と算盤』です。そこから『論語』など中国古典にのめり込んだのですが、最初は読んでいても分からない。分からないことが悔しくて、何千年も残っている本には必ず意味があると思って、読み続けました。結果的に、それらの本に何度救われたか分かりません。
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