熱烈ファンの声を丸飲み

土屋:善意のつながりで言うと、もっと面白いのは、アンバサダー制度です。アンバサダーとは、ワークマンが好きで、「いいな」と思った商品を自発的に、自身のブログやユーチューブで宣伝してくれる人です。

 そうした発信力を持つブロガーやユーチューバー30人ほどを公式アンバサダーに任命し、宣伝に協力してもらったり、一緒に商品開発をしたりしています。

 読者やチャンネル登録者が10万人いるということは、一番真ん中の意見を持っている証拠です。オピニオンリーダーなのですよ。

 一般の100人、1000人の意見を聞くより、10万人の固定読者がついているアンバサダーの意見のほうが正しい。それが分かったので、商品開発でもアンバサダーの意見を丸飲みしています。

アンバサダーとの間に、金銭のやり取りはないのですか。

土屋:金銭の授受はないものの、ワークマンは何か返さなければいけない。そこでアンバサダーのフォロワー数やチャンネル登録者数、再生回数などを、ワークマンの話題とそれ以外の回で比較し、当社の貢献度を測定しています。少しでも彼らの収入アップや仕事につながればいいと思っています。

 ワークマンは合理的に考え、必要なこと以外はしません。何にしても、両方取ろうとするから駄目なのですよ。1つを捨てれば、相当楽に目標が達成できると思います。経営判断はすべてトレードオフです。「両方取れ」と言うのはバカ、もしくは度を超えた天才かもしれない。我々凡人は、より重要なほう1つだけに集中すればうまく回るのです。

 FC加盟店が語るワークマン
会社員時代より休みも収入も増えた

ワークマン足立尾久橋通り店
店長 武藤 等氏

 ワークマンの基本の営業時間は午前7時から午後8時ですが、うちは午前6時半に開けています。店の目の前が「職人通り」と呼ばれていて、建設業などのお客様が現場に行く前に立ち寄ることが多いからです。

 店を始めた9年前は、来店客のほとんどが職人さんでした。しかし、最近は一般のお客様のほうが多いくらい。ここ3年くらいで、客層ががらりと変わりました。一気に人気に火がついた感じです。

 当初と比べると、売り上げは2倍以上になりました。毎日忙しく、ややキャパシティーオーバーになっている部分もあります。

 店は私たち夫婦のほか、パートさん7人で運営しています。私は週1回休むほか、平日も午後は帰るようにしています。スタッフは閉店5分後には帰宅します。これも、レジ締めを当日中ではなく、比較的手が空いている翌日の日中(午後2時)にできることが大きいですね。

 私は49歳のとき、ドラッグストア勤務から転身しました。元同僚が一足先にワークマンに加盟していたことがきっかけです。

 畑違いの仕事でも、すぐに仕事には慣れました。担当者のフォローが良かったからです。在庫の持ち方や売り場を変更するタイミング、商品陳列の色の順番など細かい点まで親身になってアドバイスしてくれるので助かっています。とても家族的な会社だなという印象です。

 会社員時代より働きやすく、収入も増えました。ワークマンの加盟店になって良かったなと思います。

 今、ワークマンはすごく注目されていますよね。ただ、加盟店の立場からすると、「この勢いがいつまで続くのか」と思うこともあります。うちのお店を頼りにしてくれているお客様も多いので、これからも頑張っていきたいです。

取材を終えて

 今回の取材の出発点は、ビジネスパートナーとの関係が「善意」だけで果たして成り立つのか、善意と圧力のどちらが優れたマネジメントなのかという問題意識だ。

 これまで日本企業において、メーカーと小売店、FC本部と加盟店の関係は対等とは言いにくく、大きな資本を有する側の立場が圧倒的に強い、主従関係だった。だから資本力に劣る側は、無茶な要求にも応えるし、不満も口には出さない。

 そうした長年続く慣習のようなものに、双方とも甘んじてきたのではないだろうか。ワークマンはそれを打ち破り、取引先と善意により対等な関係を築き、売り上げ向上にもつなげている。

「善意型サプライチェーン」の仕組みは、土屋専務が20年以上前から温めていたアイデア。前職の三井物産時代、経営企画室でサプライチェーンを研究。当時、大型書店でサプライチェーンに関する本を「棚買い」して読みあさったのが役立ったという。

 最初から善意ありきだったわけではないのだ。自社にとって何が重要かを考え、無駄なものを排除し、合理性を真っ当に突き詰めた結果、たどり着いた境地である。

(この記事は、「日経トップリーダー」2021年6月号の記事を基に構成しました)

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