経営と直結して考える
もう1つ、ブランディングで重要なのは、会社の経営と両輪を成すものと考えることです。
工芸を元気にというビジョンを体現するため、僕は工芸品の産地などにある中小企業のブランドコンサルティングを始めました。
その中で、数多くの決算書を見てきましたが、数字を意識した経営ができている社長はとても少ないと感じます。経営の軸が定まって初めてそれを伝えるブランディングをするのが筋ですが、経営の軸がないままブランディング自体が目的化している会社が多い。
ブランディングのために、製品のデザインを良くしたらメディアに載ったとしましょう。一時的に注目されるかもしれませんが、それで経営が改善するわけではありません。ブランディングは、売り上げが何%伸びて、営業利益率が何%伸びたかといった財務指標の改善と直結しているはず。それが分断されている。
僕がコンサルのときに「決算書を読むところから始めましょう」と話すのは、損益分岐点を超えるには売り上げ1億円、粗利40%が必要だから、それを達成できるブランドをつくりましょうといった順に考えるべきだからです。
実は、大企業より、中小企業のほうがブランディングでは有利な面があります。大企業は商品企画、設計、広報といった部門ごとに縦割りになっているので、会社全体で見たときに発信内容の整合性が取りにくい。
大企業の商品が消費者に刺さりにくくなっているのは、モノが市場にあふれているという理由だけでなく、大企業の製品がお客様のビジョン重視の志向に付いていけなくなりつつある面があると思うのです。
ですから、中小企業がしっかりブランディングをすれば勝ち目はある。中小企業から発注を受けるデザイナーは増えていますから、デザインも大企業とあまり大きな差にはならない。商品の背景にあるビジョンで勝負できる。
本業とつながるビジョン
ビジョンとは、全員がそれを目指して頑張ろうと熱くなれる旗印です。「世界の平和に向けて頑張りましょう」式のビジョンも間違いではないけれど、会社が取り組む事業とかけ離れていると社員はビジョンを自分の目標に落とし込むことができません。
社員の気持ちを熱くできないビジョンは張りぼてでしかなく、消費者を引きつけるブランドにはなりません。しかも、今は高い理想を持つビジョンを掲げても、それを実行できているかをお客様が常に見ています。
コロナ以降は、ますますオンラインでのブランディングが重要になるでしょう。例えば、2年ほど前から米国などで増えている「D2C」(ダイレクト・ツー・コンシューマー)という業態のブランドがあります。リアル店舗を持たずにオンラインでお客様とつながるビジネスモデルです。
ただ、これはビジネスモデルだけで伸びているのではないでしょう。自社のブランドを論理的に組み立て、オンライン上の情報だけで消費者にその価値を効率的に伝えることができている会社だけが伸びているはずです。
お客様との接点をどう改善していくかを、コロナ後はより精緻に考える必要があるのです。
(この記事は、「日経トップリーダー」2020年6月号の記事を基に構成しました)
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