仕事を可視化していない

(写真/ PIXTA)
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 業務用品を販売する企業のコンサルティングをしたときのことです。営業社員の中で、最も売り上げを上げている営業社員の成績は2億円だと、その会社の経営者が教えてくれました。

 「すごいですね! どうやってそんなに売り上げを上げたんですか」と私が尋ねたところ、その経営者は「いやぁ先生、あまり大きい声では言えないんですが、たまたまなんですよ」と言うのです。

 これは、この会社に限った話ではありません。成果の高い人の仕事内容を可視化すべきなのに、多くの会社ができていないのです。

 私が以前働いていた魚屋では、1日の売り上げが30万円の店舗もあれば、500万円の店舗もありました。社長は、売り上げ500万円の駅ビル店の店長しか褒めませんでした。

 当時、人事を担当していた私は、売り上げが30万円の店の店長と、500万円の店の店長では、賞与も大きく違うのだろうと思いました。ところが確認すると、わずか1万円しか違いませんでした。

 社長にその理由を尋ねても「店長の仕事はほぼ同じなんだから」と言葉を濁されます。社長の感覚には何か裏づけがあるはずだと考え、売り上げを分析してみたところ、それぞれの店舗の客数には差がありましたが、客単価はほとんど同じだったのです。つまり、売り上げの違いは、立地の違いであることが判明しました。

 それ以降、社員の評価を店舗の売り上げではなく客単価に変更しました。このように、たとえ社長の勘で決めているにせよ、賞与額の違いには理由があります。経営者は賞与の決め方を可視化し、社員に伝える必要があります。

賞与と業績を連動させる

 社員の賞与の決め方を可視化する前に、賞与原資を明確にしなければなりません。多くの企業では、粗利を基に賞与原資を計算します。私の感覚値では90%以上の企業が、粗利の3~5%程度を賞与原資と決めています。

 ところが、業績と賞与が連動していることを経営者は社員に伝えていません。それは、業績が悪化し、賞与が減った場合に社員から不満が出ることを心配しているためです。実際、新型コロナの影響で粗利が落ち込んだ会社でも、半数程度の会社は賞与額を維持しています。賞与を減らすと離職を招くのではと心配なのかもしれませんが、業績が悪くても前回同様の賞与を出してしまうと、社員はそれが当たり前だと思い、危機感を持ちません。

 私は経営者に、業績に応じて賞与原資を計算するように指導します。そして、賞与原資を全社員の成長点数(期待成果、重要業務や知識・技術、勤務態度の総合点数)の合計で割り算して、1点当たりの賞与ポイント単価を計算します。例えば1点単価が1000円のときは、この1000円にそれぞれの社員の賞与ポイントを掛け算し、各人の賞与額を計算します。

 業績が落ち込めば、1点単価が500円になる年もあるでしょう。そうすると賞与は減りますが、業績と連動することが明確であれば「次はみんなで頑張ろうね」と互いに成果を上げる方法を共有し合い、成長し合える組織になります。

 このように評価の基準を明確にし、そこに賞与ポイントを掛け合わせる方法を取っていれば合理的であり、賞与に対する社員からの不平不満は生まれないのです。

松本順市 (まつもと・じゅんいち)
ENTOENTO代表
1956年福島県生まれ。学生時代からアルバイトをしていた魚力に、中央大学大学院中退後に入社。社長の参謀役として労働環境改善に取り組み、業界初のサービス残業ゼロ、完全週休2日制を実現。社員の成長を支援する人事制度を構築し、東証2部上場(現在は1部)を達成する原動力となる。93年に独立し、中堅・中小企業を中心に人事制度の指導・支援を展開する。2021年5月17日現在で1306社の人事制度を構築した

(この記事は、「日経トップリーダー」2021年6月号の記事を基に構成しました)

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