中小企業経営者にとって悩みが尽きない、人の問題。良い社員を採用・育成し、定着させるにはどうすればいいか。人事制度コンサルタントの松本順市氏が回答する。

(写真/ PIXTA)
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・問1 「給料の高い会社に転職する」と言ってきた社員を引き留めたい
・問2 給料は高いけれど「働かないオジサン」にもう一度発奮してもらいたい
・問3 「人の2倍稼いだのに、賞与が同額とはおかしい」と社員に詰め寄られた
・問4 営業職の歩合給をやめたらモチベーションが下がった
・問5 高給で採用した中途社員が働かず、期待外れです……。
問3
「人の2倍稼いだのに、賞与が同額とはおかしい」と社員に詰め寄られた

 賞与を配るとき、多くの経営者はきっとこんなふうに言うでしょう。

 「今回は新型コロナなど、さまざまな影響があった。それを踏まえ、いろいろ考慮しながら賞与を決めた。だから、賞与の額をお互いに見せ合ったりしないように」

 しかし、明細をもらった社員たちは、社長がいなくなった途端に見せ合います。結果、「私はAさんより成果を上げているのに、賞与が同じなのは納得できない」といった不平不満が生まれます。

 人と比べて賞与が低ければ、自分はその人よりも評価が低いと感じます。その評価に納得できない社員のモチベーションは、一気に下がることになります。

賞与は成果で決めない

 「なぜ、自分はAさんの2倍も成果を上げているのに、賞与は同じなんですか」と社員が訴えてきたとき、経営者の皆さんは、きちんと答えることができるでしょうか。答え方によっては致命傷になり、最悪の場合は、その社員の離職を招いてしまいます。

 そもそも問題なのは、賞与支給額を成果の大きさで決めていることです。給料や昇格を、成果の大きさ、重要業務の遂行度、知識・技術の習得度、勤務態度の順守度などの総合点数(成長点数)で決める会社であっても、賞与は成果だけで決める会社が多いのです。

 成果を上げている人は、成果を上げるだけの仕事をしています。会社がすべきことは、そのやり方をほかの社員に共有して会社全体の業績を上げることです。

 もし賞与を成果だけで決めてしまうと、その組織は壊れてしまうでしょう。成果を上げれば上げるほど高い賞与をもらえるのであれば、そのやり方を他の社員に教えようと思うでしょうか。

 一人勝ちしたほうが給料の面では得なので、なぜ成果を上げられるのかと質問されたら「たまたまです」とごまかして、自分だけ成果を上げようとするでしょう。

 成果を上げるプロセスを隠されることは、会社にとっては極めて大きな損失です。互いに教え合わなければ、社員間の成果のギャップがますます大きくなります。

 結果として、組織全体の成果(業績)は良くなりません。そのため、賞与を成果の大きさだけで決めるのは間違っている、と私は断言します。賞与も総合点数(成長点数)で決めなければならないのです。

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