年功序列はいつまで?

 多くの日本企業は、60歳になるまで年齢給や勤続給を自動昇給させてきました。いわゆる年功序列型の賃金制度です。ここにはメスを入れるべきでしょう。

 新卒一括採用では、経験も知識もない社員を採用し、一から仕事を教えます。大学で学ぶには学費が必要なのに、企業で学ぶときは企業が給料を支払います。さらに毎年3000~5000円昇給する。この期間の昇給は、社員が一人前になるまでに会社が面倒を見る「生活保障給」です。

 そう考えると、一定の教育を終えて一人前になった後は、成長度に応じて給料を変える「成長給」にすべきだと思います。これならば、成長していない社員の給料が増え続けることはありません。

 そもそも年功序列という言葉に私は違和感を覚えます。「年功」とは、年を重ねるごとに積む経験から来る力のことです。その力量に合わせて給料が増えるという本来の意味に忠実な制度であれば、問題ありません。

 ところが、年功が増える割合やスピードは人それぞれであるのに、全社員一律に給料を上げています。つまり、実態は「年功給」ではなく、「年齢給」「勤続給」になっていることが問題なのです。

 働かないオジサン問題を解決するポイントは、「成長を支援する仕組みがあるかどうか」です。今の給料に見合う重要業務、知識・技術、勤務態度を明確にして、何をすれば、そこに到達するのかをきちんと見えるようにすることです。そして必要に応じて、教育の場も用意してください。

 さらに、どれくらい払い過ぎなのかも可視化する。「給料を払い過ぎている社員がいる」と話す経営者に、「いくら払い過ぎているのですか」と聞くと、誰一人として明確にはその金額を答えられません。感覚的に、何となく払い過ぎていると思っているだけなのです。

 なぜそうなるのかというと、成果の大きさや重要業務の遂行度、知識・技術の習得度、勤務態度の順守度などに応じて、給料はいくらになるかといった仕組みが何もないからです。算定基準が明確であれば「あの社員は合計点数(成長点数)に照らし合わせると、給料は3万円払い過ぎだ」などと説明できます。

(写真/ PIXTA)
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辞めさせてはいけない

 給料の決め方がはっきりしていれば、「払い過ぎている」と言われた社員も、反発のしようがありません。そして、社員にはこのように伝えてください。

 「給料を払い過ぎているけれども、今すぐに給料を下げることはしない。この給料に相応しい成長点数まで成長してほしい。私もあなたに今まで通りの給料も賞与も払いたいんだ。だから、あなたに成長してほしいし、しっかり指導していくつもりだ」

 もし基準を明確にしないまま、「あなたに給料を払い過ぎている」と言うと、どうなるでしょうか。社員は納得しないどころか、「もう辞めてやる!」と反発を招いてしまうかもしれません。働かないオジサン問題のゴールは、長年頑張ってくれた社員を辞めさせることではなく、もう一度奮起してもらうことですよね。

 反発され、離職を招くマネジメントは、ほかの社員の不信感にもつながります。人事制度に基づいて給料を決める基準を可視化した上で、働かない社員と向き合えば、ほかの社員にとっても、現状の仕組みの良さを理解してもらえるプラスの効果も期待できます。

松本順市 (まつもと・じゅんいち)
ENTOENTO代表
1956年福島県生まれ。学生時代からアルバイトをしていた魚力に、中央大学大学院中退後に入社。社長の参謀役として労働環境改善に取り組み、業界初のサービス残業ゼロ、完全週休2日制を実現。社員の成長を支援する人事制度を構築し、東証2部上場(現在は1部)を達成する原動力となる。93年に独立し、中堅・中小企業を中心に人事制度の指導・支援を展開する。2021年5月17日現在で1306社の人事制度を構築した

(この記事は、「日経トップリーダー」2021年6月号の記事を基に構成しました)

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