人口減が進む中、地方の中小企業にとって人材確保は大きな経営課題になっている。従業員が働き続けたいと思う環境をいかにつくるのか。2社の取り組みを追った。

楓工務店 社員がつくる動画で新人教育

2014年以来、新卒採用を続ける。5次にわたる選考で入社前後のギャップを徹底して解消。新人教育の仕組みも整えている(写真:菅野勝男)
2014年以来、新卒採用を続ける。5次にわたる選考で入社前後のギャップを徹底して解消。新人教育の仕組みも整えている(写真:菅野勝男)

 桜も満開を少し過ぎた4月上旬の穏やかな日、楓工務店(奈良市)の一室には軽妙な調子で語りかける田尻忠義社長と、熱心に聞き入る13人の新人の姿があった。

 「まだ見ぬ後輩が同じ失敗をしないように足跡残しをしましょう」。こう話して勧めているのは動画作成だ。楓工務店では、住宅建設の現場での作業や営業の業務フローから、オフィス備品や社内システムの使い方に至るまで、社員が動画を撮影して蓄積し、教育に活用する仕組みが定着している。

 人数の少ない職場では社員それぞれが仕事を抱え込んでいて、新人からすると業務内容がうかがい知れないということはままある。「目で見て盗め」といった常識がまだまだ通用する建設現場での指導はおざなりになりがちだ。

 楓工務店はこうした暗黙知の世界を脱して、動画活用に代表される新人教育の仕組みを整えている。新人は動画を事前に見て仕事に臨むため理解が早く、不明点があれば先輩をわずらわせることなく何度も確認できる。

 また、田尻社長の言う「足跡残し」として、新人は未来の後輩のために動画をブラッシュアップすることを期待されている。これには動画を改善するうちに仕事に対する理解が一層深まる効果もある。

 教育システムを整えた成果は数字に表れている。新卒の3割が3年以内に退職する建設業界にあって、楓工務店の新卒の定着率は9割以上。きちんと成長できる環境は評判を呼び、人手不足感の強い業界にあって、内定倍率は約70倍にもなっている。

新卒を積極採用し、 成長を続ける
新卒を積極採用し、 成長を続ける
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 新人教育に動画を採用するのは手探りだった。当初は説明が行ったり来たりしたり、音声が小さかったりと、クオリティーが十分とは言えなかったが、「とにかく始めることが大切だと考えた」と田尻社長は話す。

 「完璧な動画教育の仕組みをつくろうとした結果、挫折して、つきっきりのOJTに戻っては意味がない。教える側は時間がない。教えられる側が次の年のために残す。この循環の確立を目指した」。完璧なものを用意せずとも、教育を受ける側が完璧に近づけていけばいい。そんな発想だ。

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