グロース(成長)企業のトップにその秘訣を聞く連載。第1回目は、東京都武蔵野市にある自動車教習所の現場から離れ、シリコンバレーで起業した女性経営者に決断の背景を尋ねた。

<span class="fontBold fontSizeL">髙橋明希[たかはし・あき]<br />武蔵境自動車教習所社長</span><br />1976年生まれ。獨協大学卒業後、竹の塚モータースクールを経て、2001年武蔵境自動車教習所に入社。09年に社長就任。早稲田大学大学院修了。15年に米スタンフォード大学へ留学。17年に米シリコンバレーで会社を設立した
髙橋明希[たかはし・あき]
武蔵境自動車教習所社長

1976年生まれ。獨協大学卒業後、竹の塚モータースクールを経て、2001年武蔵境自動車教習所に入社。09年に社長就任。早稲田大学大学院修了。15年に米スタンフォード大学へ留学。17年に米シリコンバレーで会社を設立した

武蔵境自動車教習所は年間7000人という日本屈指の利用者数を誇っています。その社長であるにもかかわらず、米シリコンバレーのスタンフォード大学に留学したきっかけは何だったのでしょうか。

髙橋:知り合いの経営者から、これからクルマの自動運転が普及すると、教習所の先行きがどうなるのか分からないから、最先端の情報に触れてみたらどうかと、誘っていただいたのが始まりです。その人もかつてスタンフォード大学に留学経験があり、非常に勉強になったと言っていました。

 経営者としての経験と幅が広がるから、会長である父(髙橋勇氏)も賛成してくれて研究員として2015年に渡米したのです。

実際に渡米してみて、何を感じたのですか。

髙橋:どこに行っても、米国に来た目的を必ず聞かれることです。「あなたは何が欲しいの」「あなたは何がやりたいの」と。

 日本ではそういうことを遠慮する雰囲気がありますよね。「スタンフォード大学で何を勉強したいの」「誰に会いたいの」と聞かれて、ごにょごにょして明確に答えられない自分がいると気づきました。

 「あなたの目的は」「あなたは何がしたいの」と聞かれているうちに、私ははすごい自信を失ったんですよね。「地域密着型の企業からグローバル企業になるために来た」ということがうまく伝えられず、留学した当初は毎週泣いていました。

米国では自己主張から

<span class="fontBold">武蔵境自動車教習所は年間約7000人が利用する</span>
武蔵境自動車教習所は年間約7000人が利用する

毎週泣いていた。

髙橋:米国では自己主張ができなければ、存在していないのと一緒ということをまず学びました。そこで決めたのは、日本人と接触しないこと。夜間のビジネス英語スクールに通ってみたら、中国人やインド人、フランス人などは本当に自己主張が強い。そうした人たちと接しながら、まず名前を覚えてもらうように努力しました。

自己主張の大切さを痛感したわけですね。

髙橋:もう1つ最初に苦労したのは、なかなか勉強できる環境を得られなかったことです。

 スタンフォード大学の研究員は、授業を受け放題で、シリコンバレーにはスタートアップ企業も大学周辺にたくさんあってアポイントを取って事業内容を知る機会がいくらでもある――。こう思う人がいるかもしれませんが、とんでもありません。

 有名な教授ほど学部生と大学院生に力を入れて教えたいから、研究員は受け入れたくないという人が数多くいました。

 「私はこういうことをやっていて、こういうことをやりたいからあなたの授業に行きたい、あなたのカリキュラムに書いてあるこれを全部やって宿題も提出します」とアポイントの依頼を含め、メールを出しましたが、100人中99人には無視されました。やむを得ず、一度50人くらいのクラスに黙って入って受講したのですが、先生が全員の生徒の名前を覚えていて、すぐ追い出されました。

 スタートアップ企業でいえば、自動運転のことを研究しているところをちょっと見にいきたいなと思って、結構連絡してみたんです。けれど、「日本人は『教えてください』『見せてください』とだけの人が多くて次のビジネスにつながらない。タイム・イズ・マネーで損失になる」と、会ってもらえないことがたくさんありましたね。だからイベントに強引に参加したりしました。

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