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 老舗の酒蔵で経営改革を断行した若手経営者、平和酒造(和歌山県海南市)の山本典正氏。このシリーズ対談では、若きトップの目を通じて中小企業の新たな道筋を考える。
 今回は、くず餅で有名な老舗和菓子店、船橋屋(東京・江東)の8代目、渡辺雅司社長をゲストに迎え、老舗企業の組織改革や人材育成について話し合った。
 対談を実施したのは、新型コロナウイルスに関する「緊急事態宣言」発令前の3月末。コロナへの対応策から話は始まった。

「必要とされる事業をやっていれば生き残れる」
船橋屋8代目の渡辺社長(右)と、平和酒造4代目の山本社長(左)は共に業界の変革者だ(写真/小野さやか)

渡辺:ちょうど今日、船橋屋本店内の壁に光触媒の消臭・抗菌コート施工をし、次亜塩素酸の噴霧器を設置しました。

わたなべ・まさし
船橋屋代表取締役、8代目当主。1964年東京生まれ。立教大学卒業後、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。93年船橋屋に入社し、2008年から代表。著書に『Being Management~ 「リーダー」をやめると、うまくいく』(PHP)がある(写真/小野さやか)

 また、出社は必要最低限の社員にとどめ、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使ってミーティングをしています。

 売り上げは25~30%ほど落ちていますが、今は売り上げのことよりも感染者を出さないことが重要。長い目で見たら、船橋屋は明治維新も関東大震災もくぐり抜けてきました。必要とされる事業をしていたら、必ず残れます。

 東日本大震災のときにもそうでしたが、無駄がどこにあるか、どうしたらお客様に喜んでいただけるのかなど、経営にじっくり向き合えるときでもあります。ずっと増収増益で来ているので、ここでいったん少し休めというサインだと受け止めていますね。

山本:平和酒造では最悪の事態を想定し、今期の酒造りの仕込み日数を短縮することにしました。蔵の中の人口密度は高くありませんが、接触時間を減らしたほうが感染リスクを下げられると考えたからです。

やまもと・のりまさ
平和酒造社長。1978年、和歌山県生まれ。京都大学経済学部卒業後、人材系ベンチャー企業を経て2004年に平和酒造入社。伝統的な酒蔵の組織・人材改革を手がけ、業績を伸ばす。著書に『個が立つ組織』(日経BP)など(写真/小野さやか)

 一方、販売については、これまで平和酒造はインターネット通販をしてきませんでした。酒の良さを理解してくれる販売店に売り先を絞っています。売り上げが欲しければ、販路を広げればいい。でも、当社の軸を慌てて変えるのではなく、まずは状況を見定めようと社員に伝えました。

 これができるのも、身の丈以上の投資をしてこなかったからです。人口減少時代に沿って自社のペースで持続的な成長を目指す「低成長モデル」(※)の成果です。

※低成長モデルについては、山本氏の著書『個が立つ組織』に詳しく記述がある