小林 一雅(こばやし・かずまさ)
小林 一雅(こばやし・かずまさ)
1939年兵庫県生まれ。小林製薬2代目社長・小林三郎氏の長男。甲南大学在学中、父が早逝。大学卒業後の62年、小林製薬に入社。64年の米国視察旅行がきっかけで、65年米コロンビア大学に留学。76年、37歳で社長に就任。医薬品の卸業だった小林製薬を衛生日用品・医薬品のメーカーへ転換、事業を伸展させた。2004年から現職。小林製薬は1886年に創業。売上高は1552億円(2021年12月期、連結)で、24期連続増益を達成。連結の従業員数は3451人(21年12月現在)

Q.合弁先の米国企業から突如、合弁解消を通告されて窮地に。トッププランドの販売権を失い、約100億円の売り上げが消えた中、いかに対応したか。

A.おごりを猛省、対抗商品でピンチを脱する

 入れ歯洗浄剤の「タフデント」は、義歯洗浄剤市場の一角を占める当社のロングセラー商品です。実は、この商品は私の経営者人生における最大の失敗から生まれました。

 時は1970年代までさかのぼります。私は65年から米国に留学していたのですが、その折、当時の日本にはない現地で見知った商品がいくつかありました。

 これをぜひ小林製薬で扱いたい。そう思った商品の1つが、米国の製薬会社、ブロック・ドラッグ社が製造・販売する入れ歯洗浄剤の「ポリデント」です。ニッチマーケットを他社に先駆け開拓し、先行者利益を得る「小さな池で大きな魚を釣る」という当社の戦略にぴったりの商品でした。

 私自身が向こうのトップに直談判し、70年に日本での総販売元となりました。ただ、最初の5年間は鳴かず飛ばず。いい風が吹いてきたのは、76年に両社が50%ずつ出資して合弁会社の「小林ブロック」を設立した頃からです。

 ぬるま湯の入った透明の容器にポリデントを入れると発泡し、入れ歯を洗浄するという使用シーンを表現した宣伝広告などの効果で、徐々に売り上げを伸ばし、周辺商品を含めると、約100億円を売り上げるまでに成長しました。

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