<span class="fontBold">野水重明(のみず・しげあき)</span><br>1965年新潟県生まれ。工学院大学卒業、長岡技術科学大学大学院修了。89年ツインバード工業入社。海外営業部長、経営企画室長、輸出管理室長などを経て、2011年から現職(写真/菊池一郎)
野水重明(のみず・しげあき)
1965年新潟県生まれ。工学院大学卒業、長岡技術科学大学大学院修了。89年ツインバード工業入社。海外営業部長、経営企画室長、輸出管理室長などを経て、2011年から現職(写真/菊池一郎)

Q. 新型コロナウイルスワクチン用運搬庫の製造を依頼される。数が多い上、納期も短く、少しのミスも許されない。どう対応したか。

A. 国難を救うため、勝率6割でも受注を決断

 米モデルナ社が製造する新型コロナウイルス感染症ワクチンの保管や輸送に用いる運搬庫を今年2月、厚生労働省に5000台納品しました。さらに武田薬品工業に5000台、4月末までに納品の予定です。この世間的なインパクトは大きく、株価が瞬間的に5倍になりました。

巣ごもり需要でヒットした「全自動コーヒーメーカー」
巣ごもり需要でヒットした「全自動コーヒーメーカー」

 ツインバード工業は新潟県燕市にある家電メーカーです。大手が作らないアイデア家電で成長し、1996年には上場を果たしました。最近ではコロナ禍の巣ごもり需要で、全自動コーヒーメーカーや低糖質パンが焼けるホームベーカリーなどがよく売れています。

20数年かけ研究開発

 なぜ、地方の中小家電メーカーにワクチン運搬庫が作れたのか。それは、20年以上前から超低温冷凍機、FPSC(フリー・ピストン・スターリング・クーラー)の研究開発を手がけてきたからです。

 FPSCは、ヘリウムガスを冷媒に用います。円筒内でピストンが往復運動し、ヘリウムガスを膨張・圧縮させることで冷却。数分でマイナス80度まで到達します。

 開発を始めたそもそものきっかけは、3年前に亡くなったシャープの元副社長、佐々木正先生から「ツインバードこそFPSCの事業化に取り組むべき。独自技術のない会社に未来はない」と強く勧められたからです。

 その頃、縁あって毎月、佐々木先生の指導を受けていました。当社のどこを買ってくれたのかは分かりませんが、先代である父の情熱に感じるところがあったのかもしれません。

 とはいえ、FPSC事業は13年に単年度黒字化するまで、日の目を見なかった。いわばずっと会社のお荷物、金食い虫でした。

 2000年代前半、会社は絶不調。5期連続で赤字を計上し、希望退職を募ったこともありました。赤字の要因は、円安による製造コスト増と販売競争の激化でしたが、FPSC事業が足かせだったのも事実。社員から「そんなことにお金を突っ込むより給料を増やしてほしい」といった不満の声が上がりました。

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