<span class="fontBold">白井 一幸(しらい・かずゆき)</span><br>駒澤大学卒業後、1983年ドラフト1位で日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)入団。91年リーグ打率3位、最高出塁率を記録。現役引退後は米ヤンキースでのコーチ留学を経て、日本ハムの二軍監督、一軍ヘッドコーチなどを務め、リーグ優勝2回、日本一2回を獲得。17年に退団後は、野球解説のほか企業研修などにも活動の場を広げる(写真:菊池一郎)
白井 一幸(しらい・かずゆき)
駒澤大学卒業後、1983年ドラフト1位で日本ハムファイターズ(現北海道日本ハムファイターズ)入団。91年リーグ打率3位、最高出塁率を記録。現役引退後は米ヤンキースでのコーチ留学を経て、日本ハムの二軍監督、一軍ヘッドコーチなどを務め、リーグ優勝2回、日本一2回を獲得。17年に退団後は、野球解説のほか企業研修などにも活動の場を広げる(写真:菊池一郎)

 野村克也さんが亡くなりました。私は同じチームに在籍していたことはありませんが、選手時代から野村さんの「考える野球」にとても興味があり、人づてで「野村ノート」も手に入れたくらいです。

 チームの選手全員に配った野村ノートには、プレーの「選択肢」が事細かく書かれていました。「このタイプのバッターはこんな思考をするから、初球は変化球かボール球から入るべし」などと具体的です。多くの監督は選手の失敗そのものを怒りますが、野村さんが叱るのは選択肢から外れたプレーをしたとき。叱るポイントが全く違うのです。

 私はファイターズの二軍監督時代、野村さんから学んだ選手心理と状況判断を実戦で試しました。すると、面白いように相手のプレーを読むことができたのです。その後一軍のヘッドコーチになり、野村さん率いる楽天イーグルスと戦う場面でも、同じように選手心理を読みました。

 野村さんは自分の作戦が何度も読まれるので首をかしげたそうです。そんなとき、ある人から「白井さんは野村監督のことを研究しています」と聞き、対戦前の練習中に私を呼びつけました。

 「おまえ、野球のことをいろいろ知っとるようやが、誰に教えてもらったんや」

 「はい、実は野村さんの采配をずっと学んできました」

 そこからいろいろな話をし、最後には「なかなかおもろいやつじゃ。もうええわ。野球博士、あっち行け」と。「野球博士」と呼ばれ、うれしかった。以来、野村さんに会うたびに、「おい、野球博士!」と可愛がってもらいました。

 私が野村さんに引かれたのは、行動の理由を突き詰めていたからです。このカウントでバッターがどのような心理になるのか。そこでどんな球種を投げれば打ち取れる確率が最も高いのか。戦術と理由が常にセットなのです。

 私自身、選手に何かを教えるときには必ず理由を添えてきました。練習方法もそうです。なぜ、この練習をするのか。それをやることで何がもたらされるのか。教える側は、行動の背景にある理由を説明する責任があるはずです。

 戦術と理由、つまりセオリーを確立すれば、選手との間で議論が深まります。セオリーから外れたプレーをしたときは「なぜ他のことをしたのか」。それで結果としてうまくいったなら「なぜ成功したのか」と考えられる。

 セオリーがなければ、すべての行動は結果論でしかないと思います。セオリーをチームで共有することで議論ができ、セオリーも進化する。野村ノートも中身が少しずつ変わっていたそうです。

 野村さんとの対戦は、あえてセオリーから外れて駆け引きしたりと楽しかった。セオリーを見つけると、戦いは格段に面白くなります。

(この記事は、「日経トップリーダー」2020年4月号の記事を基に構成しました)

白井氏の著書『神コーチング~人が育つ言葉』を発売しました

 元北海道日本ハムファイターズのヘッドコーチ、白井一幸氏の著書『神コーチング~人が育つ言葉』が発売になりました。本書は、2つの要素で構成しています。

 1つは「育つ言葉集」。どんな職場でも、すぐにコミュニケーションの場面で使えるものを整理しました。もちろんそれらは、万年最下位争いに甘んじていたファイターズを強いチームに変えた言葉でもあり、効果はお墨付きです。

 もう1つが、昭和の古い指導スタイルをどうしても捨てきれない「鬼コーチ」と、白井氏がふんする「神コーチ」の対話。できれば叱りたくないけれど、どうしても声を荒らげてしまうという上司は多いはずです。理想と現実の狭間で苦しんでいる上司をイメージして「鬼コーチ」というキャラクターを立てました。部下が失敗したときにどんな言葉をかければいいのか、頑張っているのに芽が出ない社員にはどう指導すればいいのかなど、鬼コーチが抱える悩みは、多くの上司が抱えている悩みに近いものもきっとあるはずです。意識転換の仕方を物語を通じて考えていきます。

≪主な内容≫
序章   鬼コーチ、神コーチに弟子入りする
1章   【傾聴】アルバイトの大量離職を招いた若手社員
2章   【承認】大事な仕事で社員がミスをしてしまった!
3章   【質問】強い組織にするためのリーダーの役割

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