伸びる企業の経営者像
アトキンソン:先日、スタートトゥデイ(東京・港)の前澤友作社長に初めて会いました。彼の事業展開と自分の会社を振り返って、なるほどと思ったことがあります。
伸びる企業の経営者の特徴の1つは、その人が伸ばそうとしなくても伸びることです。経営者が考えていなくても、自分で考えている人が寄ってくる。
うちの会社で今、一番伸びているのが漆の木を植えて掻く(漆の木から樹液を採取する)部門なのですが、この部門をつくったきっかけは、ある熱心な人が講演会で声をかけてきたことでした。
小西美術工藝社は社寺など文化財の修復や施工を手がけています。実は私自身、漆を掻くことまでやるつもりはなかった。でも、いざ実行するとなれば人が必要です。
木を育生するには時間がかかるため、土地を借り、育った木を植えて漆を掻く方法にも挑戦しようということで職人を雇いました。
前澤さんもそうですが、「社長、こういうことを一緒にやりませんか」といろいろなアイデアを出してくれる人が集まる。それは経営能力の1つだと思います。
山本:うちのクラフトビール事業も同じです。東京生まれ東京育ちの新入社員がクラフトビール好きだったんです。そこでやってみようということになりました。
やはり好きな人にやらせると、自ら情報発信するなど積極的に動きますから、人も会社も発展していくんです。 アトキンソンさんは著書の中でも国産漆の重要性のことを説いていますが、結果として消費者ニーズが生まれ、人も集まっています。
つまり、経営者が市場の創出をしているのです。従来のパイを奪い合うようなモデルではなく、市場を少しずつ大きくしていく。伝統産業など成長性の低い分野は、市場創出も経営者の役割だと思います。
分析をしていない経営者
アトキンソン:企業を成長させていくことに加え、もう1つ大事なことがあります。
31年間日本で仕事をしていて一番感じるのは、経営者に分析能力がないことです。というか、そもそも経営者が分析していないので、分析する力があるのかすら分からない。感覚的に判断していることが非常に多いです。

例えばテレビで、大勢の外国人が意外な場所に旅行していて不思議だと注目していますが、不思議ですとはどういうことか。
不思議だとか予想外、案外、意外というのは、ただ単に無知で調査分析できていないということの裏返しです。
観光戦略も同じでした。私は日本政府観光局の特別顧問をしていますが、横ばいだった800万人の来日客が3千数百万人に爆発的に増加した理由は何か。
なぜ人が観光するのか、どこに問題点があるのかを徹底的に調査分析し、実行したからです。以前のように「日本の観光の魅力はおもてなしです」と言い続けていたらこうはなりません。
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