「経営者はビジョンこそ大事」。長く信じられてきたこの常識は今後も通じるのか。 強いリーダーがビジョンと圧倒的な指導力で人を動かす時代は変わろうとしている。 階層のないフラットな組織──。ITの進化、テレワーク浸透などの社会変化により、 社員の発想と自主性をすべての起点に動く企業が増えてきた。 経営の発想転換が迫られる。

(写真/PIXTA)
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<特集全体の目次>
なぜ、組織はフラット化に向かうのか
変わる個人、変わる会社 「自由」な仕組みが個人を強くする(4月28日公開)


 「来年、私は○万円の給料が欲しい。そのためにこれだけの仕事をします」。大阪府八尾市の石鹸メーカー、木村石鹸工業は2019年夏から、約40人の社員が欲しい給与を自己申告し、認められると賃金が決まる制度を導入した。

 独自の仕組みはそれだけではない。社内に営業、開発、製造、管理などの部署はあるが、そこに管理職はいない。新製品開発やマーケティングなどさまざまな仕事は、部署横断のチームで動く。

 チームは社員自らが動かすが、木村祥一郎社長を含め、8人のマネジャーがそれを側面支援する。ただし、彼らも管理職ではないから「個人の評価や管理はしない」。木村社長は事もなげにこう話す。一体どうなっているのか。

社員が給与を自己申告

独自のフラットな組織をつくり上げた木村石鹸工業の木村社長(右)。常務就任時、約7億円の売上高は2020年6月期に約13億円に伸びた(写真/太田未来子)
独自のフラットな組織をつくり上げた木村石鹸工業の木村社長(右)。常務就任時、約7億円の売上高は2020年6月期に約13億円に伸びた(写真/太田未来子)

 木村石鹸の主力製品は、手作りに近い「釜炊き」と呼ばれる昔ながらの製法で作った液体ボディー・ハンドソープやキッチン、トイレの洗剤など。これをシンプルでおしゃれなデザインの容器に詰めた「SOMALI」や、風呂の中でも排水口や床だけに特化した洗剤など独自性にこだわったものだ。

 顧客が求めていながら世の中にあまり出ていないものを作り出す。マネジャーは、チームや社員が取り組む仕事が出発点から間違っていたり、途中で計画とは異なる方向に行ったりしないように支援するのが役割なのである。

 給与は、事業年度が始まる前に社員が半期や1年分の貢献内容と欲しい額を申告する。それをマネジャー陣が見て「貢献内容が無理と見えたり、欲しい給与が見合わなかったりする場合は申告を変えてもらう」(木村社長)というが、根本の狙いは徹底して個人の自主性や発想を生かすこと。フラットな組織で、皆が自分の考えを出しやすくしているのもそのためだ。

 今、木村石鹸のような組織は特殊な例ではなくなりつつある。ここ数年、「ティール組織」と呼ばれるフラットな進化型組織が広がり始めているのだ。足元できっかけの1つになったのは、新型コロナウイルスの感染拡大で始まったリモートワークの急増である。

 在宅勤務が広がり、社内会議はもちろん、社外の営業もできる「Zoom」などウェブ会議システムが爆発的に普及し、リモートに拍車をかけた。伏線は数年前からあった。デジタル化が進み、企業の仕組みを変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きが拡大。同時にAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の進化が、その働き方を支えるデータ量を激増させてきた。

続きを読む 2/3 社員がギグワーカーに

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