地方経済の規模縮小自体は動かないが、中身は変化を始めている。人口減はむしろ地価、人件費などが低いという強みも生む。過疎の町と結びついて新たな価値を生む企業もある。人口減経済を生き抜く道筋を探るシリーズ企画の第2回。
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 「人口減? 全然問題ない。むしろ地方だからこそ、強くなれるんですよ」

 山形県酒田市で保冷剤や業務用のなめこ、大根おろしなどを生産する菅原冷蔵の菅原康生社長は笑顔をのぞかせてこう言う。

菅原冷蔵の主力商品となった大根おろしとなめこ

 父の昌一氏が1967年に冷蔵倉庫業で創業してから53年。2019年12月期の売上高は約31億円に伸びたが、発祥の冷蔵倉庫業の売り上げはなく、大根おろしが約13億円、保冷剤10億円、なめこ8億円と事業を広げながら、巧みに成長してきた。

 地元酒田市の人口は1980年に10万2600人だったが、2005年には9万8200人に減少。同年秋、近隣の3町と合併して約2万人増えたものの、現在はそれでも10万1100人だ。

 隣り合う鶴岡市も1980年の9万9700人が2005年には9万8100人。酒田市と同じく同年に近隣の4町1村と合併し、約4万4200人増えたが、現在は12万5200人へ再び減少している。高齢化率は両市とも約35%で、日本全体(28.4%=19年9月)よりかなり高い。

 足元の「市場」を見れば、全国の先を行く人口減と高齢化の逆風にさらされているわけだが、菅原社長の言う「だからこそ、強くなれる」とは何なのか。

 その1つは「地方の良さを生かし切ること」だと言う。それは地価や材料費、人件費などのコストの低さだ。

 例えば、94年に参入した保冷剤。水99%にゲル化剤1%を混ぜる保冷剤は、価格が安いため大量生産しないと利益が出ないという。しかも季節性があるため、「機械や倉庫を持ってもコストを抑えられる地方でないと、競争力を保てない」(菅原社長)。

 さらに2003年にイカを細切りにしたイカソーメン、06年にはなめこ、11年には大根おろしの生産にも乗り出した。いずれも業務用だが、ここでも徹底してコストにこだわった。

 まず材料が地元で豊富に取れるものから狙った。イカは当時、漁港でもある酒田に大量に水揚げされ、なめこは山形県が国内有数の産地である。大根も酒田、鶴岡市がある荘内地方は漬け物会社が多く、そんな会社が使わない規格外品を仕入れることもできた。

 大根だけは生産量が増えた後、他地域からの調達にも広げたが、最初は地元が産地になっていて安く買えるものから始めたという。

 さらに言えば人件費。菅原社長は「地方にいれば、賃金も大都市に比べて安い。その利点を生かさない手はない」と話す。

 実際、2004年に1時間607円だった山形県の最低賃金は、19年で790円へ183円上がった。一方、首都圏で中小企業の多い埼玉県は同じ期間に679円から926円へ247円も上昇している。ここ数年、山形県も賃金の上昇率は上がってきたが、単価自体は全国でなお一番低い層。それはやはり強みになるというわけだ。

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