深刻な外的変化が次々と起きる世界。私たちが大切にすべき軸は何か。多くの起業家のメンター的存在、フォーバルの大久保秀夫会長が今年1月に東京・溜池で講義した「日経トップリーダー大学」での要旨を実際の資料と共にお届けする。

大久保秀夫[おおくぼ・ひでお]
大久保秀夫[おおくぼ・ひでお]
1954年東京生まれ。国学院大学卒業後、アパレル企業などを経て25歳で新日本工販(現フォーバル)を設立。巨大企業NTTに対抗して新しい通信サービスを立ち上げ、88年、当時の史上最年少で株式上場。情報通信業界で数々の挑戦を続け、従業員数2500人、上場企業3社を含む28社の企業グループに成長させた。2010年から会長。アントレプレナーの先駆けとして、多くの経営者のメンター的存在(写真:稲垣純也)

 戦争や貧困、地球温暖化など現代社会を取り巻く深刻な諸問題の原因にあるのが、「自分さえ良ければいい」「今さえ良ければいい」という間違った考え方です。個人にも企業にも、利己的・刹那的な価値観がまん延しています。

 本音でお答えください。

 企業が儲けるのは当たり前だと思っていませんか。儲けることは目的ではありません。そう言うと違和感を持つ人がいるかもしれません。でも、儲けることが先に立つ経営者では、絶対に儲けることができないと断言します。

 儲けるのは手段です。本業の商品やサービスによって、社会に幸福をもたらすのが企業の目的です。そもそも「うちの商品やサービスは儲ける手段だ」と言って、社員が本気で働くと思いますか。働くわけがありません。

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 でも残念ながら、商品やサービスが「儲ける手段」になっている企業がとても多い。儲けるためには社員をリストラしたり、商品やサービスを劣化させたりする。企業が起こす不祥事の大半は、突き詰めれば、儲けが第一という考え方にあります。

 目的と手段が逆転し、手段が目的化している現状を改めなければならない。企業の優先順位は社会性が一番。経済性ではない。独自の商品やサービスを提供し、社会の問題や不便を解決した結果として、対価である利益を得るという順番です。

 私が「企業は社会性が第一だ」と言うと、「大久保さん、それはきれい事ですよ」と苦笑する人がいます。でも今から50~60年前、松下幸之助さんや本田宗一郎さんが現役の経営者だったとき、企業は社会性が重要だと、事あるごとに強調していました。儲けを優先しようとすると、すごく怒った。

 ところが、いつの間にか企業は儲けることがすべてだと価値観が変容しました。この50~60年間で180度変わったのです。これは由々しき問題です。

 真の経営者になるには企業の「在り方」を自問しなければいけません。事業を「誰のために」「何のために」「なぜやっているのか」としっかり見直すのです。

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