ロシアのウクライナ侵攻に、各国が非難の声を上げている。深く分断された世界はビジネスの環境を変える。中小企業に及ぼす影響は。経営者は何を注視すべきか。多くの企業の目先に迫るのは、「価格転嫁」のハードルである。

(写真/ロイター/アフロ)
(写真/ロイター/アフロ)

 この戦争では、ウクライナの人たちが平和な暮らしを取り戻せるよう、万人が一日も早い停戦合意を望んでいる。経営者にとっては事業の先行きも心配だ。山陰地方で建設部材を作る中小メーカーの社長は「コロナ禍が落ち着きそうだったのに、再び市場が混乱するのか」と深くため息をつく。

 この会社では、マンションやホテルなどに組み込む部材を作っている。客先である建設会社はインバウンド観光客を狙い、キッチン付きの長期滞在型のアパートメントホテルを増やしていたが、コロナ禍でその動きが止まった。

 この売り上げ減少分をマンション向けなどでカバーし、今期は何とか平年並みの利益率を確保できそうだが、そこにウクライナ危機が勃発した。「コロナ禍が収束しても、インバウンド客が戻るのかが全く分からなくなった」。

価格転嫁できるか

 ロシア国内で事業を展開する大手企業の間では「ユニクロ」をはじめ、事業停止が相次いでいる。またロシアと貿易をする企業は、国際的な資金決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの大手行が排除されたことで、商品の受け渡しや売掛金の回収などに支障が出ることが懸念される。

 大手に比べると、ロシアと直接のビジネス関係にある中小企業は少ないかもしれないが、経営に及ぼす影響は予断を許さない。編集部が取材していると、経営者の不安は日増しに強くなっていると感じる。冒頭の社長は「原油高騰による値上げも心配」と話す。

 「ウクライナ危機の前から原油価格が上昇していたので、昨年、仕入れ先のプラスチック資材メーカーから『15~20%単価を上げさせてほしい』との申し入れを受けた。どう対応しようかと悩んでいたが、原油供給量が細り、さらなる高騰は確実な情勢なので、値上げは受け入れざるを得ないだろう。

 ただし鉄骨価格も上がっており、マンションやホテルを建設するゼネコンが我々の部材値上げをのんでくれるか。ただでさえ、建設業界は重層構造で下請けの利益率が悪い。価格転嫁ができなければ死活問題になるかもしれない」

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