2019年末に閉塾した「盛和塾」。京セラ創業者の稲盛和夫氏が開いた私塾だ。閉塾直後からコロナ禍に襲われた元塾生たちは、どのように稲盛氏の教えを実践したのか。盛和塾のその後を追った。

機関誌「盛和塾」の91号には「不況を乗り切る五つの対策」が掲載されている
機関誌「盛和塾」の91号には「不況を乗り切る五つの対策」が掲載されている
<特集全体の目次>
・ある経営者の稲盛哲学実践物語 最高益の裏に「リスク分散の教え」
・稲盛哲学を学ぶ場は健在 知識から実践へ、真価が問われる
・稲盛氏が唱える「不況を乗り切る五つの対策」とは
・稲盛哲学を活学にする挑戦 コロナ下でも結果を出す教え子たち


稲盛哲学の特徴は、人としての生き方から経営の具体策まで説く点にある。心のネジを締めるため、経営の解を求めるため、その学習熱は勢いを保ったままだ。社会にその哲学を広めることが、自社の発展にもつながるとの考えも広まっている。

 コロナ禍で経営の先行きが不透明になる中、前述した「不況を乗り切る五つの対策」の実践に多くの塾生がいそしんだ。例えば、企業の販売促進支援を幅広く手がける東証一部上場企業、レッグスの内川淳一郎社長は、そのすべてをくまなく実践して、効果を上げた。一つ一つ見ていこう。

考えられる手を全部打つ

レッグスの内川社長は朝の散歩中に稲盛氏の講演CDを聞くのが日課だ(写真/菊池一郎)
レッグスの内川社長は朝の散歩中に稲盛氏の講演CDを聞くのが日課だ(写真/菊池一郎)

 まず、「トップ自らが営業の最前線に出ていく」という教え。コロナ感染が拡大した2020年3月、全事業本部を内川社長の直轄にし、トップ自らが率先して営業する体制に改めた。「普段は直接話ができないような人が、時間ができたせいか会ってくれるようになった」(内川社長)。その結果、大手企業のプロモーション契約が取れそうだという。

 各本部を社長直轄にしたことで、社員との心理的な距離感が縮まり、全社一体となってコロナに立ち向かう準備が整ったという。「従業員との絆を強くする」である。

 「新製品、新商品開発に努める」という教えについては、販促キャンペーン時などに使うデジタル応募システムを開発したところ、多くの企業に採用された。

 また昨年の緊急事態宣言の発令時、キャラクター関連企業と共同で展開するカフェの営業時間を短くせざるを得なくなった。そこで、カフェが入る物件の家賃引き下げ交渉や、より好立地で手頃な賃料先への移転などを矢継ぎ早に進め、固定費を圧縮した。「あらゆる経費を削減していく」の実践だ。

レッグスはキャラクター関連会社と連携したカフェ事業にも力を入れる(写真/レッグス提供)
レッグスはキャラクター関連会社と連携したカフェ事業にも力を入れる(写真/レッグス提供)

 カフェで売っていたキャラクターグッズは、EC(電子商取引)に切り替えるなどして販路を確保したのは、「ありとあらゆる創意工夫に努める」に当たるだろう。

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