幹部が育たない──。中小企業経営者共通の悩みだろう。どんな仕掛けがあれば、優れたリーダーが育つのか。コロナ禍の真っただ中、入社10年のプロパー社員を社長に抜擢した物語コーポレーションの取り組みから学ぶ。


物語コーポレーションの看板業態「焼肉きんぐ」
物語コーポレーションの看板業態「焼肉きんぐ」

<特集全体の目次>
・新人を10年で社長にする採用・教育・抜擢の仕掛け
・加藤央之社長インタビュー “出る杭”こそ育て、どんどん引っこ抜く(4月6日公開)

 わずか10年で社長にふさわしい人材を育成、抜擢(ばってき)することは不可能──というのは誤った常識だ。それをやってみせたのが、物語コーポレーションだ。

 2020年9月、当時34歳の加藤央之(ひさゆき)氏が社長に就任。09年に新卒で入社したプロパー社員だ。

 物語コーポレーションは東証1部上場の外食チェーン。特別顧問を務める小林佳雄氏の母きみゑ氏が1949年、愛知県豊橋市で創業した。90年代にチェーン展開に舵を切り、事業を拡大。複数のブランドを展開するマルチブランド戦略を推進し、急成長を果たす。

 現在、テーブルオーダーバイキング形式の焼肉店「焼肉きんぐ」や郊外型ラーメン店「丸源ラーメン」をはじめとする15業態、584店舗を国内外で展開する。

 2019年まで14期連続で増収増益を達成。コロナ禍で苦境が続くものの、21年6月期の売上高は640億円、経常利益は43億円(いずれも連結)と健闘している。

 会社の屋台骨を支えるのは、社内で「プレジデント」と呼ばれる店長たちだ。この呼称は飾りではなく、裁量は大きく、責任も重い。

物語コーポレーション本社の玄関には、店長全員の顔写真が飾られている。同社は店長を、リーダーシップを体現する最も重要な存在と位置付ける
物語コーポレーション本社の玄関には、店長全員の顔写真が飾られている。同社は店長を、リーダーシップを体現する最も重要な存在と位置付ける

 1店舗当たりの年商は2、3億円。日々の運営のほか、経費管理、30人から100人のスタッフの採用や育成、売り上げ向上の取り組みなど、業務は幅広い。

 店舗の年間予算は会社からのお仕着せではなく、「プレジデント」が予算策定会議で経営層にプレゼンテーションして勝ち取るスタイルだ。時には質問攻めにあったり、きついフィードバックを受けたりすることもあるという。

 なぜここまでやるのかといえば、会社を成長させるには、リーダーをどんどん育てないといけないからだ。そのためには、プレジデントとして、店舗に関わる一切の意思決定を下す経験を若いうちから積むことが欠かせないと考える。

 現在は、社内研修を一手に担う専門部署「物語アカデミー」を中心に、募集・採用に携わる人財開発部、労務関連担当の人財応援部などが、社員一人一人の成長のために率先して世話を焼く。

 そんな人材育成の仕掛けが至る所にちりばめられている同社で、幹部候補として育った社員の1人が加藤社長だ。

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