

著者 : ニーチェ
訳者 : 氷上英廣
出版社 : 岩波書店
価格 : 924円(10%税込み)
今回はドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの『ツァラトゥストラはこう言った』を紹介します。10年以上前に、ニーチェの解説や入門書のようなものが連鎖的に発刊され、ブームの様相を呈しました。国内でもかなり知られた名前でしょう。
ニーチェは、自分の哲学を万人に分かりやすく説明する人ではありません。著作の多くは散文的で、詩的な体裁を取ったエッセーに近いものです。そのため、文意を直感的にすくい上げ、吟味するような姿勢が求められます。特に本書は架空の叙事詩に近く、実は非常にとっつきにくい本です。
それでも紹介しようと考えたのは、人生のある重要な瞬間に本書を通じニーチェと出会ったことが、私という人間の深いところに影響を与えているからです。
本書は、ツァラトゥストラという名の求道者が「神は死んだ」と直感するところから始まります。神の死んだ世界で、ツァラトゥストラは人々に、「人間である自らのみに依(よ)って立ち、その可能性を余すところなく活(い)かすような生き方」を教えるべく山を下りて人々と交わるのです。この生き方ができる人を本書では“超人”と呼びます。
その中で、ツァラトゥストラと人々との対話、また彼自身の内的対話としてニーチェの考えが記されていく……。これが本書の大まかな流れです。
歴史的な観点から見たとき、ニーチェの思想は「キリスト教会支配から世俗に権力重心が移っていく」という、同時代の大きな流れの結節点として捉えられます。キリスト教批判の色が強く、ニーチェを代弁するツァラトゥストラというキャラクターは、イエス・キリストを強く意識してつくられています。ですが、ここで私はニーチェの「歴史的・思想史的な重要性」や、ニーチェの哲学体系についての解説はしません。
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