新型コロナの影響が長引き、業績が苦しい会社は多いだろう。ただ、忘れてはいけないのは、コロナ禍はいずれ収まり、その際には、多くの生活様式、消費行動が元通りになる点だ。いずれ需要回復期が訪れる。そこに照準を合わせて、仕事が少ない今こそ普段手をつけにくい、根本的な生産性改善に取り組むべきだ。
 従業員も危機感があり改革・改善に協力してもらいやすい今こそ、生産性改善を新たに始めたり、大型改善に取り組んだりする好機だ。この機を逃さず取り組んでいる3社の事例から、自社に使えるものを吸収してほしい。
コロナ禍で改善に取り組んだ菓子メーカー米屋の原料や在庫の倉庫。在庫削減活動で1200平方メートルの倉庫を空にした(写真:堀 勝志古)

<特集全体の目次>
飲食店の改善 星付きレストラン、常識を見直し9人→4人運営に
食品工場の改善 1200平方メートルの倉庫一掃(3月16日公開)
電子機器工場の改善 工場内を整理して作業効率向上 減収でも増益に(3月17日公開)

需要回復期の競争力は今決まる

 新型コロナで仕事が少ない今こそ、根本的な生産性改善に取り組むべきだ。ある金属加工メーカーは、この機に大型設備の省力化を図る改造を実施している。この改造には主要設備の稼働を1カ月止める必要があり、通常時はできない。売り上げが前期比で3分の1になり大幅赤字となったが、設備改善の決断をした。このメーカーはリーマン・ショック時にも、売り上げが90%減となる中、大型設備を止めて省力化のための改造を施した成功体験がある。

現場では確実に成果

 トヨタ生産方式を独自に発展させたことで知られ、中小企業を多数指導する経営コンサルタントの山田日登志氏は、先の見えない時代だからこそ、現場と向き合う必要があると説く。「どれだけ立派な計画を作っても、世界は自分たちを中心には動かず、計画通りには進まない。しかし現場は違う。既にあるモノや動き方を分析して改善すれば、必ず結果が出る」。

 そこで編集部では、山田氏が提唱する2つのムダ「動作のムダ」「停滞のムダ」を軸に、各社の事例から今すべきことを紹介する。

 動作のムダとは従業員が移動するだけ、モノを運ぶだけなど、「付加価値を生まない人の動き」だ。停滞のムダは、原料や仕掛かり品、完成品が店舗や工場内にただ置かれているだけの状態を指す。余計なスペースを占有し、作業者の効率を落とす上に、会社のキャッシュフローを悪化させている。

 この2つのムダに加え、「越境多能工」という概念を提案する。本来の多能工は1つの作業しかしない単能工の対義語だ。同じラインで、自工程の上流か下流の作業まで担当できると、1人が連続した複数の工程をこなせる。すると工程同士の受け渡しなどで生じていたムダがなくなるわけだ。

 さらに上を行き、工場内の全く別の作業を習得したり、製造部門の人が営業や店頭での接客などの仕事をしたりできる人を「越境多能工」と定義する。越境多能工が増えても、既存作業の生産性は上がらない。しかし、多くの業務をこなせる人材が増えれば、「こちらのラインは長時間残業だけれど、隣のラインは暇」「店舗は大混雑だが、製造部は作るものがない」といった状況を解消し、業務の平準化が可能になる。

 さらに、他部署の人と交わり、仕事を知ることで、製造と営業が自分の主張を押しつける部署間対立を軽減できるなどの効果がある。

※動作のムダ、停滞のムダの説明は編集部による
※越境多能工は編集部による造語

 従業員も危機感があり改革・改善に協力してもらいやすい今こそ、生産性改善を新たに始めたり、大型改善に取り組んだりする好機だ。この機を逃さず取り組んでいる企業の事例から、自社に使えるものを吸収してほしい。


 東京・目黒にある高級イタリア料理店「レストラン ラッセ」。コロナ禍が直撃して売上高は減るが、過去最高益を見込む。高級レストランの常識を疑い、1つずつ作業を改善してきた成果だ。

 コロナ禍の影響を最も強く受けている飲食店。その中で、売上高を3割程度落としながらも黒字を確保しているのが、東京・目黒のイタリア料理店「レストラン ラッセ」だ。2011年の開業以来、ミシュランガイドの一ツ星を取り続ける高級店で、オーナーシェフの村山太一氏はイタリア料理チェーン「サイゼリヤ」でのアルバイト経験を基に、店舗の生産性向上を図っていることで知られる。

1975年新潟県生まれ。イタリアの三ツ星店などでの修業を経て、「レストラン ラッセ」をオープンした(写真:堀 勝志古)

 もともと9人で運営していたラッセは、現在4人で回している上に、残業時間も大幅に減っている。

 村山氏は、イタリアの三ツ星レストランでの勤務経験もある職人肌。そんな村山氏は「高級店は味が評判の店でも赤字が多い。皿の1枚までこだわり抜いていることが原因の1つ」と指摘する。

 ラッセもかつてはそのような店だった。高級イタリア料理店として人気でも利益はそれほど残らず、少し客足が減ると赤字になった。長時間残業が常態化し、スタッフは1日平均16時間勤務していた。高級店では珍しくないという。

 コロナ禍になり、1日当たりの来店客数を制限した影響で、ラッセの月商は前年比で70~80%に減った。それでも黒字を維持している。利益向上を支えるのが、サイゼリヤ譲りの生産性改善だ。

 村山氏は17年から、サイゼリヤでアルバイトを開始。そこで料理人ではなく一般従業員として働きながら生産性の高い働き方を学び、ラッセに応用している。

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