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生産性を目的に社員教育

アトキンソン:中小企業の社員教育はまだまだ弱いですね。生産性を向上したいということであれば、「こんな教育をする」という内容が自動的に決まってきますが、大多数が生産性のことを考えていないのですから、教育も的外れで無駄になってしまいます。

 そもそも現在、日本が社員教育に使っている金額は、GDPの0.1%、5000億円です。バブルのときには1兆円でしたが半分になりました。

 一方、アメリカでは円に換算して年間44兆円で、社会人教育に対する投資額は世界一です。労働者の生産性を高めようとしているからこそ、投資額も高い。

 ただし投資しているから生産性が高いというわけではありません。日本は社会人教育で生産性向上を目的としていません。ですから囲碁だとかお花だとか、生涯教育のようなものが多い。

山本:平和酒造では、東北での酒造り研修、毎日30種類ずつ利き酒をするテイスティングのトレーニング、コミュニケーションやIT導入のための研修をしています。すべてはマルチタスク化など、生産性を上げるためのものです。

 教育は会社のカルチャーそのもの。周囲を見ていても、社員への教育意識を高められるかどうかは、やはりリーダーが自ら勉強していることが非常に関係していると感じます。

(後編に続く)

平和酒造とは──

採用枠に毎年1000人が殺到

 50年ほどの間に、出荷量が3割以下に縮小している日本酒業界。成熟市場で15年間売り上げを伸ばし続け、経常利益率17%(2019年9月期)を計上しているのが平和酒造だ。

 1928年、和歌山県海南市で創業。戦後は大手酒造メーカーの下請けとして日本酒のパック酒を大量生産した。

 2004年、山本社長は、4代目として家業に入った。大量生産・大量消費時代が終わり、このままでは経営が立ち行かないと、改革を断行した。

 その1つがパック酒に替わる主力商品となる自社ブランドの日本酒「紀土(キッド)」の開発だ。3年かけて味を追求、流通ルートを1地域1店舗の小売店に絞るなど商品の付加価値を高めた結果、SNSなどで話題になり、広く知られる商品となった。初年度の08年度に3000本だった出荷量は、19年度に35万本へと増加している。

 会社発展の原動力になっているのが社員の力だ。

 山本社長は人材育成のために杜氏に頼っていた酒造りのプロセスをマニュアル化するなど、若手社員育成の仕組みを整えた。

社員の平均年齢は30.6歳。若い力が発展を支える

 平和酒造は酒蔵としては全国に先駆け、大学新卒の採用を開始。社員一人一人が自由にSNSで仕事内容や商品づくりを発信し、平和酒造のファンの獲得にひと役かっている。

 目指してきたのは、社員の豊かな個性を生かす組織づくり。ジョブローテーションによりマルチタスク化をしながら、社員が何を望んでいるのか、才能はどこにあるのかを見抜き、臨機応変な人事配置を実現している。

 挑戦する場を提供する平和酒造に魅力を感じ、毎年1000人以上の大学生が採用枠に殺到する。

 15年に新規事業としてクラフトビールの開発・製造を開始したときも、プロジェクトリーダーとして抜擢したのは2年目の若手社員だった。

 日本酒「紀土」は堀江貴文氏が手がける宇宙事業でロケットの燃料の一部として使用されている。また、元サッカー日本代表の中田英寿氏と梅酒入りのチョコレートを共同開発するなど、業界の改革者としての多様な取り組みも話題を呼ぶ。

(この記事は、「日経トップリーダー」2020年3月号の記事を基に構成しました)

平和酒造・山本典正社長の新著『個が立つ経営』、好評販売中です

新卒採用に毎年1000人以上の応募が殺到する和歌山県海南市の平和酒造。その理由は、4代目の山本典正社長が入社以来手がけた経営改革にありました。四面楚歌の中、山本社長が断行した組織改革や人材育成とは? 上意下達の旧態依然とした組織がいかに「個が立つ組織」へと変化を遂げたのか。また、出荷額が縮小し続ける日本酒業界で15年間、売り上げを伸ばし続けた理由にも迫ります。


【本書の構成】
第1章 縮小市場で成長するモデル
第2章 倍率1000倍企業の人づくり
第3章 個が支える新しい組織
第4章 個が輝くための秘策
第5章 日本酒と日本の未来