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アトキンソン:今後は、「時給1000円を払っています、会社も黒字です、それで何が悪いのですか」というわけにはいきません。

 従業員1人当たりの時給が1000円では社会保障費負担に足りません。さらに1150円のお金が必要ですから、中小企業の経営者は時給2150円を支払うために生産性を上げようとする意識が必要です。

 皆さんが昔のように50歳で寿命を迎えるのであれば構いませんが、そうではない。自社が黒字であればいいという自分目線の経営だけでは日本が立ち行かなくなる。

山本:大企業は株式上場しているケースが多いので、外部の目が働いています。ですが、中小企業は未上場で、オーナー経営者が多い。社外から、より高い売り上げや利益を求められることがありません。そのため、会社が存続できればいいという目線の人は多いように思います。

中小企業の経営者の中には、「成長よりも節税」という人もまだたくさんいます。

アトキンソン:従業員を安い給料で働かせておきながら、不要な物を買って節税に必死な社長は犯罪者同然です。

山本:今は昭和の時代のようにライバルが隣町の酒蔵ではありません。和歌山の酒蔵のライバルは秋田や新潟、山口の酒蔵であったりする。インターネットで簡単に遠方の酒も買えますからね。

 これから先を考えると、ただ酒造りをするだけでなく、まず自分がどんな立ち位置で勝負しているかを把握した上で、SNSなどで広く情報発信する。こうした成長戦略が、商品の付加価値を生む上で、非常に大切です。

接待は生産性とは無関係

アトキンソン:人口増加時代は、のほほんとしていても、売り上げが自動的に伸びました。人口が激増している中で仕事をした経営者はどんなに簡単だったか。でも人口減少時代にのほほんとしたままでは、売り上げは当然減ります。

 求人を出せば人が来る時代も終わり、相当工夫しなければなかなか来てもらえません。これからは、より経営者の資質が問われていく時代です。

山本 典正(やまもと・のりまさ)
平和酒造社長。1978年、和歌山県生まれ。京都大学経済学部卒業後、2004年、実家の酒蔵に入社。19年、京都大学経営管理大学院修了。世界最大級の日本酒コンテスト「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」では、14年、15年、19年に金賞を受賞。著書に『個が立つ組織』など(写真:菊池一郎)

 現在360万の中小企業があり、単純計算で360万人の経営者がいますが、毎年、求められる経営能力の最低ラインは確実に上がっています。ところが、自分の能力を高めなければならないと思っている人が非常に少ないです。

山本:地方の中小企業の集まりなどで後継者と話をしていると、やはりお父さんの時代と同様、地域の付き合いに終始しているケースが多いです。飲み会であるとか、中小企業の仲間でゴルフに行くとか、そうしたところだけで、社長業をやっている。

アトキンソン:接待は人間の交流であって、商品そのものや付加価値とは無関係です。世界的に見れば、モノで勝負しようというのが本来の商売で、欧米ではほとんど接待がない。日本で中小企業の交際費が800万円まで損金として認められることも、接待を肯定しているようで違和感があります。

 今は口コミの時代ですから、きちんとやっていればいろいろな人が情報発信してくれます。接待は生産性を高める上で、意味がないのです。

山本:例えば、地域のプロパンガス店であれば、地方に需要があるので、地元で交流を深めていればよかった。

 ですが、人口減少時代の中小企業経営者に求められるのは、財務やマーケティングの知識など、ほぼ大企業の経営者と変わらない資質になってくるのではないでしょうか。中小企業だから大企業の簡易版でいいというのではなく、アトキンソンさんの言う当たり前の努力ができる経営者になっていかざるを得ないと思います。

 そして、自分への教育だけでなく、社員への教育も大切です。