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赤字の意識がない

デービッド・アトキンソン
小西美術工藝社社長。1965年、英国生まれ。英オックスフォード大学日本学科卒業。90年に来日後、92年にゴールドマン・サックス入社。金融調査室長時代に日本の不良債権問題を指摘したリポートで注目される。09年、国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社に入社。14年から現職。新著『日本企業の勝算:人材確保×生産性×企業成長』(東洋経済新報社)を3月末に発売する(写真:菊池一郎)

アトキンソン:人口が減少し、社会保障費の負担が確実に増える日本では、今後企業は何をしなければならないのか。

 社会保障費を健全な形で払っていくために生産性を上げなければなりません。生産性とは、「国民1人当たりのGDP(国内総生産)」のことです。

 残念ながら日本の労働者の生産性は、世界で29位。イタリアやスペインよりも低迷しています(下の表参照)。生産性が向上するということは、会社が伸びるということとイコールです。

日本は生産性の低さが際立つ
労働者の生産性(労働者1人当たりGDP)ランキング
日本の労働者1人当たりの生産性は、イタリアやスペインよりも低い
出典:『日本人の勝算 大変革時代の生存戦略』(東洋経済新報社)より

山本:平和酒造では、高付加価値商品を開発するためにも、海外で売るためにも、人が必要でした。単純に人を増やしたわけではなく、社員一人一人のマルチタスク化も進めています。

 実は今日、アメリカの西海岸からお客様が和歌山の本社に来ているのですが、私に代わり、31歳の蔵人(くらびと)がアテンドしています。彼は日本酒をつくるだけでなく、海外営業に楽しみを見つけ、活躍するようになりました。

 給与は蔵人としては300万円でしたが、海外営業も担当しているので500万円に上げています。1人当たりの売り上げや経常利益が増えた結果、人件費も上げているという循環です。

アトキンソン:山本さんのように生産性を上げるとはどういう意味か、そのために何をしなければならないかを意識している経営者は、先ほどのデータからすれば、かなり少数派です。

 国全体のP/L(損益計算書)を考えれば、ただでさえこれから社会保障費などの支出が増えていくことは明らかです。

 要するに、自分の会社が単独企業として黒字でも、国全体の支出まで換算すれば、多くの企業は「赤字」なんですよ。こうした意識が中小企業経営者にはあまりにもなさ過ぎる。

 現在の社会保障費負担は、生産年齢人口の1時間当たりで計算すると、824円です。つまり日本人の就業者全員が少なくとも824円をもらわないと計算が合わない。2019年度の最低賃金の全国平均が901円ですから、(生活費を度外視しても)ギリギリセーフレベルです。

 しかしこれが2060年になると、2150円になるわけです。

山本:大変ですね。