老舗の酒蔵で経営革新を断行した若手経営者、平和酒造(和歌山県海南市)の山本典正氏。日本酒業界でおそらく知らぬ人はいない改革者の目を通じて、中小企業の新たな道筋を考える対談連載。人口減少、少子高齢化社会を生き抜くには、どんな経営能力が必要なのか。
初回のゲストは、元ゴールドマン・サックスの金融調査室長で、現在は小西美術工藝社(東京・港)社長のデービッド・アトキンソン氏。中小企業改革を唱え続ける同氏からは、数々の厳しい指摘が飛んだ。

アトキンソンさんは来日から30年以上、日本経済の分析を続けてきました。数々の著書の中でも、日本は生産性向上を継続的に実現する経済モデルに切り替える必要があると説いていますが、平和酒造のような地方の中小企業の改革をどう見ていますか。
アトキンソン:平和酒造は組織や人材の改革を重ね(詳細は4ページ目の囲み記事参照)、この15年間で売上高は2倍になったと聞きました。商品の平均単価や輸出比率、利益率はどう変化していますか。
山本:私が父の会社に入った当時は、2000mlのパック酒を500円で大量販売していました。現在は、1800mlの商品を1800~1900円で販売していますので、価格は4倍ほどになっています。
一番高い商品が720mlで5万円なのですが、販売先は主に海外で、香港やミシュランの三ツ星レストランに卸しています。輸出比率は、15年前の2.3%から13%へと約6倍の伸びです。
会社全体の売り上げとしては、15年間で5億円が12億円ですので、成長率はあまり高くありません。ただ、500円の商品が2000円弱と高付加価値になりましたから、粗利率はかなり向上しています。経常利益率は、18年9月期には12%でしたが、19年9月期には17%を計上しました。
アトキンソン:従業員数は?
山本:パート社員を含め、25人が50人に増えています。
9割以上は拡大せず
売り上げや利益率が上がり、従業員も増えた。市場縮小の日本酒業界では珍しい。
アトキンソン:というより、当たり前のことですね(笑)。ごく普通にやるべきことをきちんとやっている、ということです。日本の中小企業は、山本さんのように会社を伸ばすことを意識している経営者が非常に少ないのが現状です。
中小企業庁のデータでは、2012年から16年に「小規模事業者」から「中規模事業者」へ、また「中規模事業者」から「大企業」へと企業区分を変えた会社は、295万社の中でわずか7万3000社。つまり95%は拡大していません。さらに、人をほとんど増やしていない。プラスマイナス1人という企業が52%です。
山本:過半数ですね。
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