強みを伸ばしてさえいれば、会社が何とか回る時代は終わった。原価管理が甘く、破綻寸前のメーカーを題材にしたリアル物語。再生人は赤字企業をどう立て直したのか。最終回となる第4回、いよいよ再建計画が始動する。

本記事の主人公
金子剛史(かねこ・たけふみ)氏
慶應義塾大学卒業後、日本石油(現・JXTGホールディングス)入社。公認会計士試験合格の後、エスネットワークス入社。取締役執行役員を経て、退職。2017年MODコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。国内有数の私的再生のプロとして、これまで約300社を復活させた。本記事は、会社や個人が特定されないように複数の事例を基に、1つのストーリーとしてまとめた

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 「今日は、我が社のコンサルタントである金子さんから話があります」

 A社社屋でも最も広いミーティングルームで、総決起集会が始まろうとしていた。

 この日は、金子と橋本が練った再生計画をいよいよ全社員に向けて説明する日だ。

 休んでいる社員は1人もいなかった。

 社員の中には、既に何度となく聞き取りをしている見知った顔もある。金子はこの2週間で、気骨のありそうな社員数人を個別に呼び出し面談をして、再生チームのメンバーとして勧誘していたのだ。

 「皆さんの中にも、ここのところの決算が悪く、疑心暗鬼に陥っていた方がいるのかもしれません。しかし、この計画通りに進めれば、確実に再生できます。今が正念場と思って努力してください」

 全社員が注視する中、金子は力強くスピーチした。

 主力製品とその利益をしっかり把握し、営業に力を入れていこう──。

 前日まで、「現状をそのまま伝えたら辞める者が続出するのでは」と、橋本は最後まで渋っていた。「経営のことが分かっている者ばかりではないから、事細かに説明するのは逆効果です」という懸念を金子は遮った。

 真実を伝え、社員一丸となって再建計画を実行するのがいいと考えたからだ。

 金子の狙い通り、居並ぶ社員たちの顔は高揚しているように見える。

 最初に訪れたときのように陰鬱な表情ではない。確実に再生できることを示したため、社員たちも不安から解放されたのだ。「何をすればよいか」といった処方せんが示され、具体的に治療法があることが分かり、安堵の表情を浮かべている。

 さらに金子はこう続けた。

 「再建するに当たり、社長は不要な個人資産はすべて手放す覚悟も決めました。皆さんも頑張って目標を達成しましょう。またかつてのように利益を出せたら、賞与も出します。皆さんのうち誰1人辞めることなく、会社もずっと存続します」

 これには居並ぶ社員たちの間でどよめきが起こった。

 橋本は地元では誰しもが知る豪邸住まい。その橋本が私財を投げ出すというのは相当な覚悟だ。そのことを社員は理解した。


 前回の面談で、金子は橋本がしょっちゅうゴルフに行っていることを指摘した。最初は「それくらい」と絶句した後、「私がゴルフに行かなくなったら、いかにも、あの会社はやばいと知らしめるようなものでしょ」と抵抗を見せた。

 しかし金子は容赦しない。こう続けた。

 「トップがじゃぶじゃぶ経費を使っていながら、社員にはコスト削減を強いるというのは難しいですよ」ときつく諭すと、がっくりと肩を落とし、了承してくれた。ほかにも、家族との食事代まで会社の経費につけていたので、これも即刻やめてもらった。勤務実態のない先代社長の父親への役員報酬も大幅カットである。

 やはりトップが襟を正さなければ、付いてくる社員はいない。

 社長が無駄な交際費を使わない分、営業部員には、使うべき場合にはしっかり使ってもらう。中小企業は800万円までの交際費が経費で落とせるのだから、節税面のメリットもあるのだ。それを橋本に強く言うと、「分かりました。私がゴルフをやめて、営業部門を後押ししましょう」と納得してくれた。

 営業部員も「経費を気にしなくていいなら、このお得意様、あのお得意様とも、一席設けてしっかりセールスしよう」と考える。もちろん、経費を使ったら、きちんとその内容を報告させ、成果もフォローすることが大事である。

 実際には、普段からしっかり営業している人しか接待する相手がいないので、いきなり交際費が多額になることはない。交際費予算を全部使い切るほうが難しい。

弱点11

社員には接待費の削減を要求しても、社長はコスト意識がなく、じゃぶじゃぶ経費を使う。

続きを読む 2/4 初めての値上げ交渉

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