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強みを伸ばしてさえいれば、会社が何とか回る時代は終わった。原価管理が甘く、破綻寸前のメーカーを題材にしたリアル物語。再生人は赤字企業をどう立て直したのか。連載第3回は、資金繰りに追われる日々から抜け出す過程を描く。

本記事の主人公
金子剛史(かねこ・たけふみ)氏
慶應義塾大学卒業後、日本石油(現・JXTGホールディングス)入社。公認会計士試験合格の後、エスネットワークス入社。取締役執行役員を経て、退職。2017年MODコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。国内有数の私的再生のプロとして、これまで約300社を復活させた。本記事は、会社や個人が特定されないように複数の事例を基に、1つのストーリーとしてまとめた

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初めての値上げ交渉

 A社社長の橋本の面会から数日すると、依頼した資料が続々と、再生人の金子の元に送られてきた。ここから次回の再訪までの10日ほどをかけて、一気に分析していくことになる。

 経営者に現実を直視してもらうためには、当たり前だが、まずコンサルタントが事態を正しく把握しなければならない。

 決算書を10期分見渡せば、どこでどう数字をいじっているかは一目瞭然である。A社の場合は、売掛金を増やし、棚卸資産を増やし、仕入債務を減らしていることが読み取れた。

 金子が見たところ、確かに粉飾ではあるが、そう悪質ではないと判断していいだろう。かつてもっと滅茶苦茶な粉飾企業を立て直したこともある。

 数年前に再建を担当した、千葉にあるファブレスメーカーF社はひどいものだった。主にカーペットを扱う会社で、中国や東南アジアから輸入して、GMSなどのスーパーに販売したり、親会社のハウスメーカーが建築するマンションに卸していた。

 創業者である親の代からの粉飾体質で、2代目が引き継いだときは数字をすさまじく操作していた。金子が関東近県にある2カ所の倉庫に行くと、あるはずの在庫がなく、ないはずのものがある。粉飾の調査にどのくらいの時間を費やしたことだろう。

 GMSに卸している商品は、「最低価格はニトリに負けたくない」と意地を張るものだから、赤字商品のオンパレード。主力商品は販売単価が安過ぎて限界利益すら出ておらず、売れば売るほど損をするという惨状だった。

 ところが利益計算はいいかげんで、経営者はそれに気づいていない。

 「売り上げが上がるほど、赤字ですよ」

 「海外から持ってくる運賃すら出ていないのですよ」

 2代目社長を説得するだけでひと苦労だった。


 このF社の案件は、A社と業種などの条件は異なるが、再生の道筋として1つ共通するのは、利益率の高い商品を徹底して売ることである。

 どの商品がどれくらいの利益が出ているかすら、きちんと分かっていない経営者が多いのが現実。そこで利益率をまず丹念に洗い出し、1つずつ値上げをするかやめるか、早急に決断しなければならない。それがすべての業種の再生に通じる道である。

弱点8

どの商品が儲かっていて、どの商品が儲かっていないのか。そうした基本的なところをあいまいにしている。