コロナ禍で苦境にあえぐアパレル業界にありながら、快進撃を続ける作業服大手のワークマン。その経営手法は独特だ。「全社目標を定め、各人に落とし込み、期限までにやり切る」といった多くの企業がしていることをせず、10期連続最高益の達成を見込むという。
なぜワークマンではこうした“非常識な経営”を実践するのか。改革を先導した土屋哲雄専務のインタビューからその秘密を探る。
<全体の目次>
5分で分かるワークマン 商品はそのまま、見せ方を変えて客層拡大
土屋専務インタビュー(前編)「経営者が真面目過ぎるから失敗する」
土屋専務インタビュー(後編)「社員にストレスを与えないことが永続の条件」
2年かけてヒアリング

土屋:実はワークマンに入社して2年ほど、私には決まった仕事がありませんでした。その間、何をしていたかと言えば、若手のスーパーバイザーなどにひたすら同行していました。
目的は店舗視察ではなく、社員が何をやりたいのかをヒアリングすることです。1日中、営業車に同乗するので、結構腹を割って話せます。通算100人以上に話を聞いたでしょうか。
そのときに感じたのは、社員も作業服だけでは限界があると気づいていることでした。アウトドアウエアの領域に客層を広げたいというのは、私が描いた戦略ではありますが、社員みんなの願望だったのです。このため、社員のやる気を引き出しやすかった。
今までそうした社員の声を聞く機会はなかったのですか。
土屋:作業服業界は無風で、当社の業績は安定していましたから、無理に何かをやる必要はなかった。そもそもワークマンは無駄なことを一切しない会社ですからね。
以前、PBの作業服は、黒と紺ぐらいしかありませんでした。作業服を購入するプロのお客様のほうしか見ていなかった。社員が従来にない製品を提案したとしても、「そんなことをしても意味がない」「そんな派手な服、絶対に売れない」と言われていたのでしょう。
製品開発の担当者は「もっとこういうものを作りたいのに」という思いが5年、10年溜まっていた。だから「客層を拡大する」と言った瞬間に、百花繚乱ではありませんが、一気に花開いた。「こういう柄や色の製品を作ったら売れるかもしれない」という彼らの思いが爆発し、魅力的な製品が次々に生まれたのです。

2年の年月を費やし、社員に地道に話を聞いたことが、新たな戦略につながったのですね。
土屋:やはりそれぐらいの時間は必要です。大体、もう1つのブルーオーシャンをつくるなんて簡単にできっこありません。
難しい課題をノルマにして、タイムスケジュールを組んで、マイルストーンを出してやろうとすると、失敗します。
周囲の声を聞きながら、仮説検証でいろいろな実験をして、結果が良かったら前に進む、そんなやり方でいいのです。期限に追われるから諦めてしまう。期限がなかったら、とことんやるものです。だからワークマンでは、仕事に期限を設定しません。
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