コロナ禍で苦境にあえぐアパレル業界にありながら、快進撃を続ける作業服大手のワークマン。その経営手法は独特だ。「全社目標を定め、各人に落とし込み、期限までにやり切る」といった多くの企業がしていることをせず、10期連続最高益の達成を見込むという。
なぜワークマンではこうした“非常識な経営”を実践するのか。改革を先導した土屋哲雄専務のインタビューからその秘密を探る。
<全体の目次>
5分で分かるワークマン 商品はそのまま、見せ方を変えて客層拡大
土屋専務インタビュー(前編)「経営者が真面目過ぎるから失敗する」
土屋専務インタビュー(後編)「社員にストレスを与えないことが永続の条件」(3月11日公開)
一般客向け新業態「ワークマンプラス」の仕掛け人が、土屋哲雄専務だ。創業家の出身で、商社マンを経て2012年にワークマンに入社。2年の〝遊軍〟期間を経て社内改革を推進。新たな領域を切り開いた。

ワークマン専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当。1952年生まれ。東京大学経済学部卒業。75年三井物産に入社。2012年ワークマンに常勤顧問として入社。常務を経て、19年6月から現職。創業者・土屋嘉雄氏のおい
ワークマンでは短期目標や仕事の期限を設けないと聞きましたが、本当ですか。
土屋:経営目標や数値目標があるにはありますが、ガチガチな進捗管理はしていません。例えば、「ワークマンプラス」を今後10年で500店舗出すなどの目標はあっても、社員にブレークダウンして「店舗開発担当は年間20件の物件を確保する」といったことは一切していない。
その部分だけを取り上げられがちですが、当社の基軸である「機能」と「価格」に関わること以外の余計な仕事はしないという意味であって、好き勝手にしていいというわけではありません。
やること、やらないこと、基準がすべて明確なのです。それを象徴するのが標準化。ワークマンは標準化が日本一進んでいる小売りではないかと自負しています。新業態を1店舗でも軌道に乗せれば、数十店舗、数百店舗、1000店舗と素早く展開できます。実際、ワークマンプラスは立ち上げからわずか2年4カ月で269店を展開させました。
データにゴミがない

具体的にどのように標準化しているのですか。
土屋:店舗の坪数は全店100坪で、品ぞろえは97%共通です。価格は980円、1900円、2900円、3900円、4900円の5つのプライスにほぼ集約。定価販売で、値引きはしません。
標準化の良い点は、データにゴミがないことです。全店舗が同じ条件ですから、全国902店から無作為に20店を抽出するだけで、十分かつ有効なデータが取れるというわけです。
当然ながらデータは強力な武器になります。詳しく分析して、地域標準にするのか、全国標準にするのか、マニュアルをどう書き換えるのか、もしくはもう少し範囲を広げて検証するのかを検討します。単に業績推移を見るためのものではないのです。
こうしたデータの活用は私が入社してから始めたことですが、一切の無駄を排除した経営は、今に始まったことではなく、創業当時からのやり方です。
今回、私が進めた改革は、もともと絞り込んでいたものを、さらに極めた格好です。ワークマンプラスがまさにその例です。既存業態である「ワークマン」の取り扱い製品数を絞り込んだ業態なのですからね。
標準化に象徴されるように、すべきことを極限まで絞っているから、ワークマン独特の経営が成り立つのですね。
土屋:私は5年、10年ではなく、100年の競争優位をつくるために「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」という新業態を開発しました。
100年の競争優位を築くためには、無理なく続けられることが重要です。だから優れた人は必要ない。「凡人の凡人による経営」、頑張らないことを前提にする。そうでないと、100年も続かないでしょう。
社長も凡人でいいのですか。
土屋:トップこそ凡人でいい。会社に突出した人は要りません。突出したリーダーで伸びた会社は100年続かないと思います。
特に、我々のような「第2世代」はいわば脱力の経営、組織で力を抜いて勝つ方法を考えることが大切だと思います。
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