社員に情報を隠す会社と、社員に情報を出す会社。一昔前ならどちらも成立したが、今や「ガラス張り経営」は必須だ。ただし、導入したものの、途中で挫折する会社も実は多い。ガラス張り経営の導入後に起きる混乱を整理し、それを未然に防ぐ方法、対処する方法を事例で考える。

(写真/PIXTA)
(写真/PIXTA)
<特集全体の目次>
・GMO 熊谷正寿氏「給与の公開直後は大混乱も、今の私にはストレスがない」
・未来志向の会社は情報を公開し、過去にこだわる会社は情報を隠す
・情報をオープンにしたら多額の交際費がばれる?
・他部門の数字に関心を持たない社員の意識をどう変える?
・経営数値を共有するのは無意味?
・中途社員との賃金格差を表沙汰にしたくない


トップの粘りで押し切る
三和化工紙(菓子の包装紙製造)

ガラス張りにするための会議を開くのは無駄だ。その時間、仕事をすればもっと生産性が上がるのに──。そんな社員の反発にどう対応すればいいか。大阪の包装紙メーカーの事例を紹介する。

 「部門別採算制度を定着させるのに2年近くかかった」。菓子の包装紙などを製造する三和化工紙(大阪府柏原市)の三井貴子社長は、ガラス張り経営への移行に伴う苦労をこう振り返る。

「部門別採算制の本格導入に2年かかった」と話す三井社長(写真/大亀京助)
「部門別採算制の本格導入に2年かかった」と話す三井社長(写真/大亀京助)

 三和化工紙では毎月1回、前月の部門別会計の結果を共有し、改善点がないかどうか2時間かけて「経営会議」で話し合う。全社員37人のうち、リーダークラス以上の15人が出席する。経営会議の間は、工場の稼働も止めて製造部門のリーダーも参加する(5)

(5)数字の会議は全部署参加が原則

全部署の参加を原則にしないと、会社にとって必要不可欠な会議であることが社員に伝わらず、形骸化してしまう恐れがある。

 経営会議を開いた翌週の月曜日には、朝礼で各部門の管理職が一般社員に、自分の部署の採算の結果を伝える。つまり、全社員が少なくとも自部署の月次損益は把握していることになる。2009年から始めた取り組みだ。

 経営会議で公表するデータは多岐にわたる。全社の損益分岐点の推移や、各部署の原価、総労働時間数、工場各部門の生産実績を総労働時間で割った「時間当たり生産性」、工場各部門の営業利益から本部経費を引いた値を総労働時間で割った「時間当たり採算性」などだ。部署ごとの結果をすべて開示するため、印刷すると30ページ近くにも及ぶ。

「最初は稼働を止めて会議をすることに心の葛藤があった」と話す盛田工場長
「最初は稼働を止めて会議をすることに心の葛藤があった」と話す盛田工場長

 経営会議の導入が難航したのには理由がある。部門別採算を高めるには本来、生産性を高めるべき。それにもかかわらず、2時間にわたり工場の稼働を止めて会議を開くほど情報共有は大切なものなのか。社員はそこに矛盾を感じ、納得できなかったのだ。

 「当時は業績がよかったこともあって、最初はやらされ感満載だった。面と向かって『いつまで続けるんですか』と言われたこともある」と三井社長は語る。

 実際、製造部工場長の盛田健一氏は「これまで工場の稼働率を高めることにまい進してきたので、2時間も稼働を止めることに当初は心の葛藤が随分あった」と振り返る。

次ページ 硬軟交えて説得