そこまで言い切る野球指導者も珍しいのでは。まして高校野球の強豪校を率いているのに。

佐々木:筋肉は年を取れば落ちますが、知識や知恵は一生使えます。だから私は、野球部員に勉強の成績も厳しく問うし、人として正しい考え方を持つようにしっかり育てる。そうすれば「我が子を花巻東の野球部に入れたい」という親が増えるはずだと考えました。

 最初に取り組んだのは企業に求められる人材をつくることでした。「佐々木の教え子は出来がいい」と信頼されるようにならないといけない。野球部員を教育し、一方でたくさんの企業経営者に会い、私自身を売り込みました。無理して地元で一番いいすし屋のカウンターに座り、そこに来る経営者の方たちと面識も持った。

 大学進学率も上げました。その頃、学校が特別進学クラスを設け、私の何倍もの給与待遇で新しい教師を招いた。悔しくてね。「特進クラスより先に野球部から東京六大学や国立大学に行くぞ」と部員にハッパを掛け、実現しました。

 花巻東の野球部に行けば、地元のいい会社に就職できる。希望する大学にも行ける。社会人や大学で野球を続けることもできる。出口戦略に力を入れると、人が流れ出しました。野球のうまい子が入部するようになった。

ゴールから逆算する

具体的に生徒をどう教育すると、野球がうまくなり勉強もできるようになるのですか。

佐々木:目標達成の方法を教えました。一人一人に高いゴールを設定させる。そこから逆算し、今日何をすればゴールに近づけるかを考えさせるのです。

 朝8時から30分間をそれ専用の時間に充てています。大会優勝や大学合格などの目標を見据え、昨日の反省点と改善点、今日の目標と決意、やることとやらないこと、「今日のライバル」は誰か、などを一人一人に記入してもらう。

 記入用紙は「練習哲学」から始まる「Hanamaki Higashi Baseball team Philosophy(花巻東野球部フィロソフィ)」という冊子に挟んでいます。冊子は毎年4月の新学期が始まるタイミングで野球部全員に配布します。

 がむしゃらに頑張るのではなく、日々何をどう頑張るのかという意識をはっきり持つことで、目標に確実に近づいていく。そのツールがフィロソフィです。

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