「社長の教組」「日本のドラッカー」と称される一倉定が、再注目されている。中でも、1969年発行の『ゆがめられた目標管理』は組織運営のバイブルだ。コロナ禍のような激動の時代のマネジメントを説いた名著をダイジェストした。

1918(大正7)年、群馬県生まれ。36年、旧制前橋中学校(現在の前橋高校)を卒業後、中島飛行機、日本能率協会などを経て、63年、経営コンサルタントとして独立。「社長の教祖」「日本のドラッカー」と呼ばれ、多くの経営者が師事した。指導した会社は大中小1万社近くに及ぶ。1999年逝去

※文中の注は、日経トップリーダー編集部によるもの。漢字表記などは本誌に準じて変えた部分がある



 「うちでも目標管理を導入していますが、困ったことがあります。それは、社長から割りつけられた目標と、各部門で自ら立てた目標が食い違うのです。社長の目標がムリなのか、部門の自主的な目標が甘いのか、どちらか分かりませんが、目標が2つあるのはおかしいし、現実には社長から割りつけられた目標が優先する。

 そうすると、部門の長は、“我々の意向を無視した押しつけは困る”と言うのです。一体、どうしたらいいのでしょうか」

 ある会社の研修室長の質問である。この質問が、現在(※原書が発行された1969年)わが国に広まっている目標管理の矛盾から生まれる混乱を端的に物語る。

 この会社は、長期にわたって赤字続きであり、社長と副社長はその責任を負って退陣し、常務であった人が社長の椅子について、必死の挽回策を講じているその最中にこれである。社長の意図と成員(※構成員のこと)の考え方に大きなギャップがあるのだ。

 この質問に対して、筆者(※一倉氏)は次のように答えた。

 「社長の設定した目標がどのようなものであるかは知らない。しかし、その目標は会社を立て直すために、おそらくは幾十夜にもわたり、眠ろうとしても眠れない苦悩の末に、血の出るような思いで決定されたものであることは間違いない。その決定までに、社長は考えられる限りのすべての事柄について考え抜いているはずである。

 赤字を逆転して黒字に持っていくためには、あまりにも多くの客観的・主観的な障害や大きな制約があり、どの障害と妥協し、どの制約には譲歩するかを検討し尽くし、これ以上妥協したら黒字転換はできない、というギリギリ、後へは引けない線を打ち出しているのだ。ムリであるとか、ないとかの問題ではない。やり抜くよりほかに会社の生きる道はないのだ。

 それに反して、各部門の長が自主的に設定した目標は苦心はしたであろうが、会社を立て直すために、幾十夜にもわたり眠ろうとしても眠れない苦悩の末に打ち出した目標でないことは確かである。甘い目標がその証拠だ。常識的な苦心しかしないで、社長の大苦悩の末に打ち出した目標を批判すること自体間違っていやしないか。

 あなたの会社は赤字なのだ。ぐずぐずしていたら潰れるぞ。部門の長がやらなければならないのは、社長の設定した目標を批判することではない。社長の打ち出した目標を達成するために、死にものぐるいになって働くことなのだ」

 研修室長は、筆者の言を理解してくれた。そして、「事態の認識が足りず、社長の意図の理解が足りなかった」と反省された。

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