『嫌われる勇気』の著者で、哲学者の岸見一郎氏がリーダーのあり方を説く連載の第36回。他の人の考えを聞かずに、自分だけで物事を決めてしまう独断家のリーダーの危うさを説明する。

 リーダーの立場で大きな決断をしなければならないことはあります。起こっている困難が前例のないものであれば、判断を誤るということは当然ありえますが、大きなリスクと責任が伴う決断をためらっているうちに好機を逸してしまうことがあります。

 他方、他の人の考えを聞かずに、自分だけで物事を決めてしまう独断家がいます。

 哲学者の三木清が次のようにいっています。

「独断家は甚だしばしば敗北主義者、知性の敗北主義者である。彼は外見に現れるほど決して強くはない。彼は他人に対しても自己に対しても強がらなければならぬ必要を感じるほど弱いのである」(『人生論ノート』)

 リーダーはどんな困難な事態を前にしても考え抜かなければなりません。ところが、独断家のリーダーは考えるのを諦めてしまいます。理由は二つあります。

 一つは、困難が前例のない誰も経験したことのないものなので、どうすればいいか判断がつかないからです。

 もちろん、リーダーだからといって常に的確な判断ができるわけではありません。実際、予測や判断を誤り、正しいと思って打ち出した方針が後になって間違っていると判明することがあります。だから、考えても無駄だと現実に居直って考えるのを止めてしまえば、そのようなリーダーは「知性の敗北主義者」なのです。

 次に、虚栄心です。考えるのを止めたら判断はできないはずなのに、安易に行き当たりばったりの結論に飛びつき、それを振りかざします。独断家が歯切れよくスローガンを唱えるのは、虚栄心による強がりなのです。

 威勢のいいことをいう人は実は「弱い」、一言でいえば、劣等感があるのです。決断を下せない無能なリーダーであると思われることを恐れているので、自分の劣等感を隠して、考えることを放棄して強いリーダーと見なされるために独断家になるのです。

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